【その瞳に映るもの・2010X'mas】 P:04


 笹山と別れ、新宿二丁目に足を向けた。
 昔から通っている店の、オネエなマスターに絡んでクダを撒き、強い酒を立て続けに煽った。

 ―――その辺でアンタのこと狙ってるネコでも連れて、とっとと帰んなさい!立てなくなるまでヤッて忘れるのよ!

 酷い言われ様で追い出されたが、さすがにそんな気にもなれず。長谷は顔見知りの誘いを振り切り、歩き出して。
 どういうわけか、笹山を見つけた。

 ―――何してんねんアイツこんなとこで!

 と、思ったときには駆け出していた。それを見た笹山が、素早く身を翻し走り出す。
 放っておけない長谷と、どうしても足を止めない笹山の、追いかけっこ。
 狭いビルとビルの間でなんとか腕をつかんだ時、見覚えのないスーツを来た男が笹山ではないと、長谷はようやく気が付いた。

 ―――貴様、どこの者だ。
 ―――笹山ちゃうやん…誰?
 ―――聞いているのは私だ!

 もみ合う二人の背後で、何人もの荒々しい足音と、怒鳴り声がした。それを聞いた男は途端に沈黙し、背の高い長谷の身体で、自分の姿を隠そうと……したようなのだが。
 酔っ払っていた長谷は、彼の行動をいわゆる「お誘い」だと勘違い。なにしろ新宿二丁目という場所がマズかった。
 ぎゅっと抱きしめ、上を向かせ、唇を重ねた瞬間に、頭は真っ白……記憶はそこで一端、途切れている。
 
 
 
 
 
 明けて本日、12月21日。
 バスルームから出てきた長谷は、髪をガシガシ拭きながら溜め息を吐いた。

「アカンわ…全然、思い出されへん」

 途切れてしまった記憶。
 消えた時間の中で確かなのは、自分が見ず知らず男を抱いたまま嘔吐し、彼の高そうな服を汚してしまったこと。それがすぐそこの、紙袋に入っているスーツだ。

 しかしスーツを脱ぐなんて、一体どこで?
 そもそもこのスーツは誰に返せばいい?

 デニムに洗いざらしのシャツを着て、リビングに戻った長谷は、じいっと一枚の扉を見つめた。それは、寝室に続くドア。
 自分がリビングで寝ていた、ということは。あの扉の向こうに、もしかして迷惑を掛けた張本人がいるんだろうか?
 ……どうにも怖くて確かめられない。

「とりあえず、メシにしよ」

 自分を納得させ、逃げるようにしてキッチンに立った。