笹山と別れ、新宿二丁目に足を向けた。
昔から通っている店の、オネエなマスターに絡んでクダを撒き、強い酒を立て続けに煽った。
―――その辺でアンタのこと狙ってるネコでも連れて、とっとと帰んなさい!立てなくなるまでヤッて忘れるのよ!
酷い言われ様で追い出されたが、さすがにそんな気にもなれず。長谷は顔見知りの誘いを振り切り、歩き出して。
どういうわけか、笹山を見つけた。
―――何してんねんアイツこんなとこで!
と、思ったときには駆け出していた。それを見た笹山が、素早く身を翻し走り出す。
放っておけない長谷と、どうしても足を止めない笹山の、追いかけっこ。
狭いビルとビルの間でなんとか腕をつかんだ時、見覚えのないスーツを来た男が笹山ではないと、長谷はようやく気が付いた。
―――貴様、どこの者だ。
―――笹山ちゃうやん…誰?
―――聞いているのは私だ!
もみ合う二人の背後で、何人もの荒々しい足音と、怒鳴り声がした。それを聞いた男は途端に沈黙し、背の高い長谷の身体で、自分の姿を隠そうと……したようなのだが。
酔っ払っていた長谷は、彼の行動をいわゆる「お誘い」だと勘違い。なにしろ新宿二丁目という場所がマズかった。
ぎゅっと抱きしめ、上を向かせ、唇を重ねた瞬間に、頭は真っ白……記憶はそこで一端、途切れている。
明けて本日、12月21日。
バスルームから出てきた長谷は、髪をガシガシ拭きながら溜め息を吐いた。
「アカンわ…全然、思い出されへん」
途切れてしまった記憶。
消えた時間の中で確かなのは、自分が見ず知らず男を抱いたまま嘔吐し、彼の高そうな服を汚してしまったこと。それがすぐそこの、紙袋に入っているスーツだ。
しかしスーツを脱ぐなんて、一体どこで?
そもそもこのスーツは誰に返せばいい?
デニムに洗いざらしのシャツを着て、リビングに戻った長谷は、じいっと一枚の扉を見つめた。それは、寝室に続くドア。
自分がリビングで寝ていた、ということは。あの扉の向こうに、もしかして迷惑を掛けた張本人がいるんだろうか?
……どうにも怖くて確かめられない。
「とりあえず、メシにしよ」
自分を納得させ、逃げるようにしてキッチンに立った。