色んな橘の表情を知って、長谷の気持ちが変わり始める。
そして一人寝のソファーの上。橘の方も少しぐらい、何か気持ちに変化があるといいな、と。昨日の長谷は、上機嫌で目を閉じたのだ。
そして今日、12月23日。
一足早くクリスマスを祝うため、予約を入れた客足は、閉店まで途絶えることがなかった。
もちろん本番は明日、クリスマスイブ。そしてクリスマス当日だろう。
体力に自信のある長谷でも、さすがに疲れ切って帰宅した深夜。自宅の前で深呼吸をし、おそるおそるドアノブに手をかける。
軽く回った。
鍵が開いている。
それは扉の向こうに、自分を迎え入れてくれる人が待っているという証。
「ただいまっ!」
明るい声で言いながら中に入ると、リビングからメガネをかけた男が顔を出した。
「遅かったな」
「世間は今日からもう、クリスマスやで」
「らしいな」
「メシまだ食べてへん?」
「…まあな」
「すぐ作るから、待っとって」
にこにこと笑み崩れる長谷が、疲れも見せずキッチンに立とうとする。橘はそれを引き止めるように、この家に来て始めて長谷の腕に触れた。
「冬吾さん?」
「もう寝ろ」
「え。なんで?腹、減ってるやんな?」
「こんな時間に食えるか。今日はいい」
びっくりした長谷が、まじまじと橘の顔を覗きこむ。
メガネの奥の冷たい視線。少しも逸らそうとしない、意志の強い瞳の中に、長谷は答えを見つけて。ふっと肩の力を抜いた。
「そんなん、言わんとってえや。冬吾さんとメシ食うんが、オレの元気の素やねんで」
「………」
「心配してくれたんは嬉しいけど。そう思うんやったら、付き合って?」
早朝に家を出た長谷が、深夜まで働いてきたことを、橘は気にしてくれている。それはとても意外で、想像していなかった分、浮き足立つほど長谷を喜ばせたけど。
だからこそ、そんな橘と一緒に食事がしたい。
お願いやから、と続けた長谷の前で橘は視線を鋭くし、掴んでいた腕を離すと、冷たく背を向けた。
「誰が誰の心配をしているんだ、馬鹿馬鹿しい。こんな時間に食っても、寝るまでに消化しないだろ。後が面倒だからいらないと言ってるんだ」
「消化のええもんにするから。な?」
「しつこい」
「困ったなあ…あ。ほんなら、ちょこっと甘いもん食べて、お茶すんのはどお?」