力強く歩き出し、店に向かった。
仕事は責任とプライドを持ってするものだと、橘はそう考えている。だったら彼に認めてもらえるよう、今日も明日も乗り切らなければならないのだから。
……しかし。12月25日の今日。
5年目という慣れのせいだろうか。クリスマスの忙しさは去年まで感じていたような、目が回るほどでもないような気がする。
厨房は朝からずっと、比較的のんびりした空気に包まれていた。
「なんか今日って、けっこうヒマなんですか?」
バイトも不思議に思ったのっだろう。手を動かしながらも首をかしげて、長谷に尋ねてくる。同じことを考えていた長谷には、肩を竦めて見せることしか出来ない。
忙しいことは忙しいのだ。
昨日はやはり例年通りの泊まりになってしまったし、仕込みも午前まで続いていた。
いつもはのんびりしているオーナーも、明け方には店へ来てドルチェを作っていたし。まあ、そのあと姿を消したのだが。
「どーやろ?予約はいっぱいやって、聞いてんけどなあ…」
キャンセルでも出ているのだろうか?その割には、料理もドルチェも、予定数が順調に捌けているように思う。
「いっぱいよ〜」
長谷とバイトが振り返った。
厨房にある裏口の扉を開けて立っていたのは、真っ赤なサンタガールのコスチュームに身を包んだ、この店のパティシエ兼オーナー様だ。
「オーナー!どしたん、そのカッコ!」
「準備してたの〜。昨日までは時間なかったけど、今日ならいいかな〜って思って〜」
「そんなんして遊んでたら、またマスターに怒られんで」
「平気だも〜ん!だってシェーナは私の店だも〜ん」
だも〜ん、じゃないだろう。
長谷はバイトと顔を見合わせ、苦笑いを浮かべてしまう。
オーナーは、長谷よりけっこう年上であるマスターの、そのまた年上だったはず。はっきりした年齢は知らないが、どう考えてもサンタガールという歳ではない。
「去年までは既製品を買ってたんだけど〜今年は知り合いに頼んで、作ってもらっちゃった〜!似合う〜?」
「……ほんま……なあ」
「なによ〜似合わないってゆ〜の〜?」
「似合うから問題なんちゃうのん」