【その瞳に映るもの・2010X'mas】 P:05


 真っ赤な衣装はオーダーだというだけあって、彼女のミニマムな可愛らしさを、充分活かしたデザインになっていた。動き回ってもすんなり身体を追いかけてくる生地は、それなりにいいものを使っているのだろう。
 オーナーは普段から、取り立てて若作りをしているわけではない。それなのに、なぜかどうにも、こういう恰好が似合ってしまう。
 良かった〜と嬉しそうにくるくる回っていた彼女は、楽しそうに注文票の並んでいる場所を見上げた。

「予約はいっぱいなの〜。去年よりもたくさん、いただいたくらい〜。でもね〜吉野くんがちゃんと、計画を立ててくれたから〜。製作チームだけは、ちょっとだけ余裕かな〜」

 パティシエとシェフ。余裕があるのは作り手だけだ。今もフロアには人が溢れ、吉野はきっと、内心ピリピリしているだろう。

「計画って?」
「メニューを限定したりとか〜席の配置を変えたりとか〜…予約も早くから受け付けてたし〜。ポスターとかね〜案内とかね〜、前もって予約しないとダメですよ〜!って。押し付けがましくならない程度に、ちゃんとアピールしてたんだよ〜」

 知らなかったでしょ〜?と、オーナーはまるで、自分のことを自慢するみたいな顔で笑っている。
 店で顔を合わせると、いつも無理やわがままを言って、吉野を困らせるオーナーだけど。長谷や笹山が出会う前からの付き合いだという二人は、他人にわからないような、固い絆で結ばれているらしい。

「ええな」
「なにが〜?」
「うん、オーナーとマスター。家族でも恋人でも友達でもない、なんか全然違うもっと強いもんで繋がってんねんな」
「そうね〜古い付き合いだからね〜」
「ここの開店より前なんやろ?いつから?」
「ん〜と、ウチの弟が役者になる前だから〜…吉野くんが手のつけられない不良さんで〜学生服のまんまタバコ吸ってた頃から…かな〜」
「マスターってそういう人やったん?!」

 今ではそのタバコすら吸わない吉野。どんな客にも動じない彼が、そんな経歴の持ち主だったと知って、長谷が驚きの声を上げた時だ。
 話題の吉野が、つかつかと厨房に入ってきた。

「マスター!今ちょうどマスターの…」
「うるせえよ」

 長谷のそばまで歩み寄り、彼は大きな溜め息を吐いている。営業中の吉野にしては珍しい姿を見て、長谷は心配そうに眉を寄せた。