【蓮×千歳A】 P:06


 
 
 
 千歳と、四歳年上の理子が結婚したのは、今から7年前のこと。当時千歳は、まだ大学生だった。

 高校の卒業式が終わってすぐ、千歳は蓮から逃げるようにして地元を離れ、連絡を絶ってしまった。
 元から蓮以外に親しい人間のいなかった千歳だ。新しい友人もろくに出来ない孤独の中、千歳は癒しきれない寂しさに、人との繋がりを求めていた。

 だからといって、もう千歳には上辺だけの友人など作れるはずがない。
 蓮といる居心地の良さを知ってしまった千歳にとって、心の通わない友人関係など寂しさを煽るばかり。
 元々、理解しあえないでいた家族とは、同じ家に住んでいた頃さえ、仲がいいとは言えない状態だった。電話するのも年に一度くらい。
 友人も家族も頼れない大都会の中、千歳の孤独は増していく。

 そんな千歳を心配し、声をかけてくれたのが、理子の祖母だった。当時千歳の住んでいた下宿の大家だった彼女は、いつも千歳を見守ってくれた。
 大家の気遣いに救われた千歳は、寂しさのせいもあって、独居老人である彼女の手伝いと称し、下宿の隣に住んでいた老人の家に入り浸り状態。しかし大家もそれを笑って受け入れてくれていた。

 一方で、18歳でシングルマザーになると決めた時に両親から縁を切られ、頼る先のなかった理子。
 仕事に出ている間、まだ幼かった息子を一人に出来なかった理子は、唯一自分を理解してくれた祖母の元へたびたび息子を預けに来ていて。

 虎臣の相手をしてくれる千歳と、顔を合わせるようになった。

 理子たちに出会い、親交を持つようになって、少しずつ蓮への気持ちを封じられるようになった千歳は、理子に気持ちを傾けたのだ。
 理知的な美人の理子は、見た目に反して口が悪く、どうにも目つきが悪くて、他人に勘違いされやすかった。しかも千歳が出会った頃の理子は、そういう己の状況に慣れきっていて。
 人と理解しあうことを諦めているその様子が、千歳に蓮を思い出させたのだろう。

 強い意志を持ち、人に流されたりしないくせに、それでも寂しげな横顔。
 結局千歳は彼女を蓮と重ねてしまった。まるで自覚のないままに、蓮への想いを理子に投影したのだ。

 虎臣が千歳に「お父さんになって」とせがんだのは、小学校に入ったばかりの頃。それがきっかけで、二人は結婚する。

 忘れられない蓮への想いがあるのに、それを理子への気持ちだと勘違いした千歳。
 千歳の勘違いにうすうす気付いていながら、虎臣と自分を支えてくれる者が必要だった理子。
 勘違いと打算の上に成り立った、いびつなカタチの結婚。

 結婚式が千歳にとってのファーストキスという、ありえない二人の関係は、初めて肌を重ねるはずだった夜に崩壊する。
 千歳は女性を愛せない自分に、そのときになって気付いたのだ。