【蓮×千歳B】 P:03


 風景が専門のRenだが、仕事の選り好みはしないようで、探してみるとポートレートから動物の写真に、街中のスナップまで、作品は多岐に渡っていた。
 もちろん専門だというだけあって、中でも風景を切り取ったものが、一番わかりやすく彼の才能を現している。
 映っているのは何気ないものばかりなのだが、蓮のフィルターを通した景色はどれも幻想的で、彼自身がまとう雰囲気のように、清廉な空気を感じるのだ。

「すごく好きだなって、思った」
「…そりゃどうも」

 自分の言葉が告白のようで、それに気付いた千歳は赤くなりながら、一冊の雑誌を取り出した。

「あ、あの…たくさん葛の写真、見たんだけどね。とくにこれが、いいなって」

 言いながら千歳が開いたのは、一昨年に発行された冬号。そこにはRenの撮った写真が、見開きで使われている。
 Renはとくに、夜明けや黄昏のような「合間」の時間を好むらしく、千歳が気に入った写真も、夕暮れを写したものだ。
 青から紫へ変わろうとする空を背景に、大木の陰がそれ自体、静かにたたずむ生き物のようで、最初にこの写真を見たとき、千歳はふいに泣きたくなってしまった。

「葛はこういう時間帯を撮るのが好き?」
「そうだな…あんまり人がいないだろ。そういう時間」
「うん」
「田舎でも都会でも、そこに在るものが剥き出しになっている時間が、撮っていて気持ちいいのかもな」

 穏やかな瞳で呟いているのを見ているだけで、千歳は切なくなる。蓮を好きだと、痛いくらいに実感する。
 視線を上げて千歳を見た蓮は、苦笑いを浮かべ肩を竦めた。

「だがもちろん、仕事なら何でも撮るさ」
「あ…」

 街中のスナップには地元の人々を入れて欲しい。企画を説明したとき、千歳自身の言った言葉だ。
 話が戻ったのを機に、千歳は「聞いてもいかな」と躊躇いがちに口を開いた。

「何でも」
「えっと…葛、やっぱりこの企画、乗り気じゃないの?」

 いつも以上に言葉数少なく、企画の概要を聞いていた蓮。引っかかっていたことを尋ねると、蓮は溜息を吐きながら「今更だろ」と応えた。

「そうだけどさ…ちゃんと、聞いておこうと思って」

 編集長の岩橋はこの企画に際し、かなり強引にカメラマンRenを口説いたと、自分で言っていた。
 日本の各地を蓮が巡り、そこで撮った写真にRen自身が文章をつけるという、6ページの企画。

 今まで蓮は、文章を書くような仕事を引き受けたことがなかったし、千歳の記憶にも蓮が文章を綴っていた記憶はない。しかし千歳が読んでも、やはり蓮の書く言葉は魅力的だった。