【蓮×千歳B】 P:06


「出来るだけ、取材期間は短くなるように考えるけど、さすがに日帰りばかりとはいかないかな…」
「いや、そこまで考えなくていい。ただ取材は集中して短期間に抑えたいだけだ」
「え?」
「二・三日の泊りなら構わない。今は任せられる奴がいるからな」

 どきっと千歳の胸が震える。
 家のことを任せられる存在というと、やはり女性なのだろうか。こんなにも魅力的な蓮が、まだ独り身でいるなんて、期待しない方がいいのかもしれない。

「そ、そうなんだ」
「ああ」
「えっと…あの、じゃ、じゃあ少しは楽になった…?」

 ついしどろもどろになってしまう千歳の言葉をどう受け取ったのか、蓮は苦笑いを浮かべていた。

「楽にはなってないな。短期間なら家を空けられるようになったが、その分、心配事も増えた」
「心配事?」
「あまり長く家を空けると、取り返しもつかないほど荒らされそうだ」

 ため息を吐き出す様子は苛立っているというより、そんな状況さえ楽しんでいるみたいで。
 俯きぎみに視線を落とし、どうやって理由を聞き出そうか悩む千歳の耳に、カシャ、とシャッターの下りる音が聞こえた。

「え?!」

 弾かれたように顔を上げる。
 そこにはいつの間にカメラを構えたのか、愛機を手にした蓮が、苦笑いのまま千歳を見つめていて。

「ちょ、ちょっと…びっくりするだろ!」
「相変わらずだな」
「何がっ」
「そうやって下向いて、一人で悩むのが。言ってみろ」
「葛…」
「気になることがあるんだろ」

 きゅうっと胸が詰まる。切なくて嬉しくて、息苦しい。
 やっぱり蓮は昔と同じように、千歳を支えてくれるのだ。どんな些細なことも見逃さず、いつもは無口な彼がちゃんと欲しい言葉をくれる。
 何度かまばたきを繰り返し、躊躇う千歳は思い切って顔を上げた。

「こ、恋人っ」
「…なに?」
「だから…恋人、が、いるとか…その子に家を任せてるのかなって…思って…」

 自分の言葉に動揺しながら尋る千歳が、あまりに必死な顔をしているものだから。蓮は少し驚いた表情になり、すぐにくすくす笑い出した。

「そんなことか」
「ご、ごめん。いきなりプライベートなこと聞いて」
「いや、構わないさ。家を任せているのは四つ下のイトコたちだ。お前も昔、何度か会っただろう?」
「イトコ…あ、双子の?」
「あいつらは双子じゃない」
「え?」
「似ているが、双子なのは叔父たちで、あいつはらその子供同士。ひとつだけだが歳も違う」
「そうなんだ…ずっと双子なんだと思ってたよ」

 蓮の言う双子のようなイトコたちとは、確かに高校時代、一度か二度会ったことがある。
 瓜二つの顔に、今の今まで双子の兄弟だと思っていた。