しかしあれだけ似ていて、兄弟でさえないなんて。どうにも腑に落ちず首を傾げてしまう千歳は、蓮の手元にいた鳥モドキが訳知り顔に頷いているのを見てしまい、息を呑んで口を噤んでしまう。
「そのうちまた、会うこともあるだろ…今は二人とも、うちに住んでるからな」
「…わ、わかった」
挙動不審な千歳の様子をどう受け取ったのか、見えるはずもないのに蓮はその視線を追って、ため息を吐きながら手を振り、そこにいたものを追い払った。
「悪いな」
「え?」
「…いるんだろ」
「あ…」
たとえ自分に見えていなくても。感じることさえ出来なくたって。蓮は一度も、千歳の話を疑わない。
高校で初めて出会い、いつもなにか小さな存在に囲まれている蓮に、思わず千歳が自分の見えているものの話をしてしまった時から。
眉をしかめる蓮に、千歳はうつむいて小さく「平気だよ」と呟いた。
顔を上げれば厳しい表情の蓮がいて、その整った顔のそばに、ぱたぱた羽ばたいているイキモノ。
平気なわけがない。見慣れたとはいえ、やはり未知の存在に対する恐怖は消えないのだ。
それでも千歳は、ゆるく首を振る。
平気、大丈夫。そう唱えることはすでに条件反射。
「もう…慣れてるし」
「そうか」
「大丈夫だから」
言いながらも顔を青くしている千歳を見て、蓮は手にしていたファイルを片付けてしまった。
「今日はこれくらいにしてくれ。後の予定がある」
「あ、ごめん!もうそんな時間?!」
企画を引き受けてくれたとはいえ、フリーの蓮は他にも仕事を抱えていて、忙しい身の上だ。この後にも予定が入っているのは聞いていた。
「あの…葛、今週もう一度くらい会う時間取れる?」
「お前が決めろ。俺はその方が、時間を作りやすい」
「じゃあえっと、金曜は?」
「午後でもいいなら」
「うん。何時?」
「2時には来る」
「わかった、待ってる。…ありがと」
本当なら編集者の自分が出向くべきなのに、蓮は屋敷の前で倒れた自分を、そうとは言わずに気遣ってくれているのだ。
千歳がはにかんで微笑むのを、怖いくらい真剣な目で見つめていた蓮はふいっと視線をそらし、立ち上がって自分の荷物を取り上げた。
「じゃあな」
「待って、下まで送って…」
「必要ない」
ぴしゃりと跳ねつけられ、しゅんとした表情になってしまう千歳を、蓮は打ち合わせスペースを出る寸前に振り返った。
「…独りだ」
「え、なに?」
「俺に女はいない。寂しい独り身だ」
「あ…」
恋人はいない。そう答えてくれたとのだとわかり、千歳の顔がどんどん赤くなっていく。しかし蓮はそんな千歳を、無表情に見ていた。
「あの…葛、僕は…」
「結婚したんだろ」
「…え…」
「知ってるよ。じゃあな」
振り返ることもなく、去っていく背中。
蓮からの拒絶を感じて、千歳はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。