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【蓮×千歳③】 P:08


 
 
 
 十年前、高校の卒業式。
 その日の千歳は、朝からずっと緊張していた。

 高校一年生のときに出会い、その優しさを知ってから、少しずつ言葉を交わすようになった蓮。
 ゆっくり距離が短くなって。
 いつの間にか、周囲からも親友と呼ばれる間柄になっていた。

 でも千歳にとって、蓮は友人じゃない。
 彼の前に立てばいつも胸が高鳴って、言葉には出来ない切ない気持ちがあふれそうになってしまう。
 他の誰も代わりにならない。
 同性でもいい。トモダチでなんかいたくない。

 高校三年になって、別れが現実味を帯び始めたときから、千歳は悩み続けたのだ。
 写真の道に進む蓮と、国文科を目指す自分。志望大学は離れている。そうなると、ただの友人でしかない自分では、日々の雑事の中で後回しにされ、なかなか会えなくなってしまうだろう。

 ――葛に会えなくなるなんて、嫌だ。

 千歳は覚悟を決めた。
 あふれる気持ちを、もう止められない。

 卒業式が終わって。
 待ち合わせていた校舎の裏、ずっと放置されている、立ち入り禁止の温室へ向かった。
 枯れた植物ばかり置いてある温室を、カメラを手にした蓮が、中へは入らずに眺めている。
 ゆっくり近づいて。その背中を見つめたまま、千歳は想いを口にした。

「離れたくないよ、葛…ずっとそばにいたい。そばに…いて」

 振り絞った勇気が、ちゃんと気持ちを言わせてくれた。
 でも、蓮は振り向いてくれなくて。
 視線を温室から足元に落とし、何も応えてくれなかった。

「葛…?」

 期待していたことは、否定しない。
 高校三年間、一番近い存在だった蓮。
 指先が触れるとき、視線が触れるとき、千歳は蓮の中に、自分と同じ熱を感じていたから。

「…まいったな」

 ようやく返ってきた言葉に、千歳は身が凍るような気がした。

「まさかお前が、そんなことを言うとは思わなかった」

 ――抑揚の少ない、低い声。
 いつも蓮の気持ちを一番理解していたのは自分だ。口下手な彼が言葉にしない気持ちを、誰より千歳は理解していた。
 いや、理解しているつもりだった。

 振り返りもせずに駆け出した。
 泣いているのを知られたくなくて、そのまま誰の声にも振り返らず、自分の家まで走った。
 部屋に閉じこもり一晩中泣いて。
 失恋の痛みを受け止めきれないまま、千歳は予定を早め、進学する大学の下宿へ逃げ込んだのだ。

 大学を卒業しても、地元へは帰らなかった。同窓会の知らせにも、いつも欠席に丸をつけた。

 高校を卒業して十年。
 千歳は一度も、蓮に会おうとしなかったのだ。