【蓮×千歳C】 P:07


 店のことは蓮に任せ、千歳は今日まで行っていた取材先のことを尋ねてみる。あの携帯に送ってもらった、きれいな海の話が聞きたかった。
 蓮の話は端的で、いつもと同じ言葉少ななものだ。しかし千歳はいつも、蓮の視線で語られる話に、興味をそそられる。
 相変わらず千歳が夢中になって話を聞いていると、ほどなくして一軒の店で車が止まった。

 大きな構えのその店は、入ってみると活気があって、笑顔を絶やさない店員たちがアットホームな雰囲気を作っている。席は全部仕切られていて、おざなりに作られた編集部の打ち合わせスペースより、
よほど個室という感じがした。
 適当に注文した料理はどれも、美味しくてきれいな盛り付けだ。
 
和食が好きな自分のために、蓮はここを選んでくれたのだろうか。目の前に並んだ揚げだしも、煮付けも、味が千歳好みですっかり気に入ってしまった。

「よく来るの?」
「仕事で帰りが遅くなるときはな」
「いいなあ、美味しい。でもここって、車がないと来られないよね」
「いつでも連れて来てやるよ」

 蓮の言葉は何気ないものだったが、次の約束がもらえたみたいで、千歳は嬉しさに顔を赤くしてしまう。
 蓮に再会してからもう、結構な時間が過ぎているというのに、千歳は彼の言葉に翻弄されっぱなしだ。不思議そうに料理の器を覗き込んでいる小さな生き物には、慣れてきたのに。

「それで」
「ん〜?なに?」
「何じゃないだろ。聞かせろよ」
「あ、そっか」

 相談事があって、食事に誘ったのだ。千歳は朝からのことを思い出し、しゅんと肩を落としてしまう。
 言いづらそうな千歳の言葉を急かさず、蓮はポットで運ばれてきたお茶を、千歳の湯飲みに注いでやった。

「ありがと」
「ああ」
「…あの、あのね。実は今日の朝、いきなり理子さんがイタリアに行くって言い出して。それで、マンションを処分したいって言うんだ」
「…嫁さんか?」
「あ…えっと。そう、なんだけど」

 確かに蓮にはまだ、結婚の経緯を話せていない。
 どうしようか迷う千歳が視線を上げると、蓮はいつかのように鋭く千歳を見てはいなかった。普段どおりの穏やかな瞳に、自分の姿が映っている。
 柔らかな光に勇気をもらって、千歳は注いでもらったお茶で喉を潤し、覚悟を決めた。

「実は僕らの結婚って、カタチだけのものなんだ」
「………」