「理子さんのことは好きだし、虎くん…理子さんの息子なんだけど、虎くんのことも大事だと思ってる。でもその、理子さんと僕は親友みたいなもので…いわゆる普通の夫婦とは、違うんだ」
「どうしてそんなことになったんだ?」
「えっと…まあ、色々あったんだけど。結局は虎くんの為かなあ。理子さんの旦那さんっていうより、虎くんのお父さんになるほうが、比重大きかったし」
本当は理子への想いを勘違いしていたからなのだが、そこを話すと忘れられない蓮への想いも明らかになってしまう。
千歳が怖々蓮を見ると、彼は意外にも苦笑いを浮かべていて。
「葛…?」
「お前にしては、随分と思い切ったことをしたもんだな」
「う、うん」
もっと何か責めるようなことを言われるんじゃないかと、心の準備をしていた千歳に、蓮は一言「納得した」とだけ言った。
「え?それだけ?」
「他に何を言うんだ」
「だって…そんなの間違ってるとか、おかしいとか」
「俺がそんなことを言ってどうする。お前のことだから、ちゃんと考えた結果なんだろうが」
「うん…」
「それに父親がいない苦労なら、俺も知ってる。お前の息子は幸せだな、千歳が父親になってくれて」
ほんの少し目を伏せた蓮の表情に、不謹慎だとわかっていながら、千歳の胸はドキドキと高鳴っていた。
大人になって、以前よりも研ぎ澄まされた野性味を感じさせるようになった蓮だけど。そういう寂しげな顔は、昔と何も変わらない。
――葛のその顔、一番好き…
頬に熱が上がってくる。
そうなると、同じ皿に箸をつけている今の状況がどんなに幸せか、急に気付いてしまった。仕事以外で蓮と二人きり、食事をしているなんて。思えば再会して初めてのことだ。
途端に顔が上げられないくらいの羞恥が湧き上がってくる。
耳を赤くして俯く千歳を眺めながら、蓮は箸を置いた。
「なあ、千歳」
「え、えっ!なに?!」
「…どうした。なんて顔してるんだ」
「ちょ、ごめ…あの。なんていうか、葛がわかってくれたの、嬉しくて」
「のん気な奴だな。住むところが無くなろうって時に」
「あ…そうだった」
別にデートをしているわけじゃない。今は話を聞いてもらうために、二人で食事をしているのだ。
千歳がそうっと顔を上げると、蓮はくすくす笑いながら、組んだ腕を机に置き、顔を近づけてきた。