【蓮×千歳D】 P:07


「あ、あの…」
「不安なのはわかるが、そのうち慣れてくる。ここには俺がいるだ。あんまり心配すんな」

 必ず守るから、と。真摯な目に囁かれ、千歳は顔を赤らめながら頷いた。

「ねえ葛…まだちゃんと言えてなかったけど、本当にありがとう。葛がいてくれて良かった」
「ああ」
「それとあの、これからよろしく、ね」

 ほんの少し潤んだような目で、まっすぐ見上げる千歳に、蓮は眉を寄せる。そのままゆっくり近づいてくるきれいな顔立ちを見ていられなくて、千歳がぎゅうっと目を閉じたとき。
 二人の空気を引き裂いて、千歳の後ろから虎臣が声を上げた。

「千歳さんっ!」
「えっ?!あ、えっと、なに?」
「荷物片付けちゃおうよ。じゃあね、葛サン。お世話になりマス!」

 言うや否や千歳の腕を掴んで部屋の中へ引っ張り込むと、虎臣は上辺だけの笑みを浮かべて蓮の身体を押し戻し、ドアを閉じてしまう。
 騒がしい中の声に耳を傾けながら、蓮は肩をすくめて階段を下りていった。
 
 
 
 
 
 蓮のことは気に入らないくせに、予想以上に広い部屋で有頂天になったいた虎臣が落ち着き、二人が階段を下りたのは三十分後。言われたとおり一階のホールから、四角く切り取られた壁の向こうに広がるリビングへ入ると、そこはまた別世界だった。

 二十畳を超えているように見えるリビング。奥はダイニングなのだろう。大きなダイニングテーブルがあって、店でも開けそうな広いキッチンも見て取れた。
 千歳は高校生のころに、一度だけこの南国荘を訪れたことがあるが、そのときも庭で人とは思えない、宙に浮いた男から話しかけられ、建物までたどりついていない。
 屋敷の中はどこも初めてだ。

 ――そういえば、あの人いないな…

 これっぽっちも会いたかったわけではないが、いないとそれもそれで気にかかる。

 大きな窓から外の光が差し込み、昼間なら電気をつけなくても明るいリビング。
 入ったところで千歳と虎臣がきょろきょろしていると、窓のそばにおいてあるソファーから男が二人立ち上がった。

「千歳さん」

 片方がにこやかに手を振っている。
 二人はまったく同じ顔で、蓮の言っていたイトコたちだとすぐにわかるが、こうして会うとやはり彼らが双子ではないなんて、信じられない。
 虎臣と千歳が顔を見合わせ、そちらに近づいていくと、同じ顔の二人は同時に自分たちの前のソファーを勧めてくれた。

「前に会ったことあるよね」
「うん。葛のイトコだよね?」
「そうそう。ボクが年下の伶志(レイシ)。こっちが一コ上の」
「雷馳(ライチ)」

 まったく同じ顔だが、伶志の方が人当たりのいい笑顔で、雷馳の方が冷たい無表情で名乗る。千歳の隣に座った虎臣が、戸惑った表情で二人を見ていた。