「…双子じゃないの?」
「あはは〜残念ながら違うんだよね。双子なのはボクたちの父親。ちなみに榕子(ヨウコ)さんの弟ね」
「榕子さんって誰?」
「蓮さんのお母さん。この屋敷の女主人」
「へえ…」
「君がアレでしょ?生意気な虎くん」
「ちょっと…いきなり何だよそれ」
「怒らない怒らない。蓮さんだよ、言ったのは。どんな子?って聞いたら、生意気なガキだって」
「…アイツ」
拗ねた顔でふくれる虎臣を、伶志が興味深そうに見つめている。面白がる表情に、千歳は苦笑いで口を挟んだ。
「僕もつい最近まで、双子だと思ってた」
「うん。面倒だからあんまり説明しないんだ。蓮さんは蓮さんで、あの通り必要なことしか喋らないし」
「…必要なことも喋らないときがある」
「だよね。ただ蓮さん以上に口下手な雷馳が言うのもどうかと思うけど?」
「………」
「この通り、葛家は饒舌か無口か、どっちかしか生まれないらしいんだ」
あはは〜と笑いながら、伶志はふと千歳がテーブルに置いた箱を見た。
「千歳さん、それ何」
「え?ああこれ、引越しのご挨拶に。蕎麦もおかしいかなと思って」
「知ってる!そのロールケーキ。最近通販とかもやってて有名じゃん。お取り寄せってやつ」
「うん。ウチの近所だったから」
「マジで?いいな〜。蓮さん早く戻ってこないかな。先に開けたら怒られるよね」
「…当たり前だ」
「そういえば、葛は?」
周囲を見回してみるが、広いリビングにはさっきから蓮の姿がない。首をかしげる千歳の言葉に、そうっと箱の中を覗きながら、伶志が答えてくれた。
「蓮さんなら榕子さん探しに行ったよ。すぐ戻るってさ。…う、わっ!マジ美味しそう。ねえ雷馳コーヒー淹れてよ」
「…なんで僕が」
「ああ、雷馳がやったらコーヒーでも時間がかかるもんね。雷馳の料理はプロ並みなんだけど、いちいちきっちりレシピ通りやるから、時間かかってしょうがないんだ」
「伶志」
「なんだよ、ホントのことじゃん。あ〜もう、蓮さん早く戻ってきて〜」
ぽんぽん言葉の飛び出す伶志に、虎臣はぽかんとした表情になっている。少し固い表情だった千歳も、思わず頬を緩めてしまった。
それを見逃さずに、伶志はにやりと笑みを浮かべる。
「緊張してた?千歳さん」
「あ…いや、少しね」
「必要ナイナイ、ボクらに緊張なんて。おんなじ居候なんだから、仲良くしてよ」
「そういえば二人はいつからここに?」
「五年前。もうここのルールは聞いた?」
「え?ルール?」
顔を見合わせる千歳と虎臣に、さらっと自分のことから話をそらせてしまった伶志は、ダイニングを指差した。
「ごはんは基本、6時、12時、19時。蓮さんの仕事しだいだけどね。蓮さんの予定はあそこのホワイトボードに書いてくれるから、ご飯いらないときは、その下に自分で書き込むこと。弁当が欲しいときもね」