【蓮×千歳D】 P:09


「食事って全部、葛が?」
「もちろん。いないときは雷馳がやるんだけど、さっきも言ったように時間かかるから気をつけて」

 言われた方を見ると、確かに冷蔵庫の横にホワイトボードが貼ってあり、何かが書き込まれているようだ。

「掃除は共有スペースだけ蓮さんがやってくれる。自分の部屋は自分で。洗濯はランドリールームの篭に入れた分だけ蓮さんがやって、バスルームの隣のリネン室の棚に置いといてくれるから、各自回収」
「ちょ、ちょっと待って。全部?葛に任せっぱなし?」
「そうだよ。だってボク出来ないし、蓮さんがやらないと誰もしないもん」

 伶志はあっさり言うが、蓮も仕事のある身だ。昔から家事に追われていたのは知っていたが、いっそう大変になっているんじゃないかと、千歳は心配な顔になった。
 自分も何か、出来ることを手伝うべきなのかもしれない。
 千歳がそう思っていると、ダイニングの奥からちょうど蓮が現れた。

「伶、雷、電話」
「誰から?」
「八嶋(ヤシマ)さんから」
「僕が出る」

 すっと立ち上がった雷馳が足早にリビングを出て行くのを、伶志は不満そうに見送った。

「ズルいんだから、自分ばっかり」
「ソファーに居座ったままで何言ってる。足りないものはなかったか?千歳」
「うん、大丈夫。それより葛、いま聞いたんだけど掃除とか洗濯、僕も手伝うよ」
「必要ない。慣れてる俺がやるのが一番早い」
「でも…」
「会社勤めしてるお前より、俺の方が時間があるってだけだ。もちろん手が足りないときは、声を掛けるさ」

 言いながら座ろうとした蓮に、伶志が千歳の前にあった箱をさっと差し出した。

「蓮さん、コーヒー飲みたい」
「なんだと?」
「これ千歳さんから。引越しのご挨拶だって、ロールケーキ」
「お前な…」
「ボク、コーヒー。雷馳、レモンバームのハーブティ。榕子さんはダージリンがいいんじゃないかな。千歳さんと虎くんは?」
「なんでもいいの?じゃあコーラ」
「虎くんっ」
「あるぞ、コーラ。お前も遠慮すんな、千歳。緑茶だろ?」
「いいよそんな、誰かと一緒で」
「だったら丁度いい。俺も緑茶だ」

 蓮は「悪いな」とひと声掛けてケーキの入った箱を受け取り、そのままキッチンへ向かってしまう。慌てて立ち上がろうとする千歳を、伶志が笑いながら止めた。

「気にすることないよ。あの人の面倒見の良さはもう、生まれついてのサガなんだ」
「だけど」
「それより千歳さんってさ、色々見えるんだよね。もうラジャには会った?」

 ずっと誰にも話していないことを、急に聞かれたことに動揺して、千歳は喉を締められたかのように声が出ない。ソファーに座ったまま驚愕の表情を見上げ、伶志は首をかしげた。

「どうしたの」
「あ…な、なんでそれ…」
「え?ああ、見えること?そりゃ蓮さんから、普通に」