【蓮×千歳E】 P:05


 くすくす笑う千歳を見て、中沢が「そういうの」と話しかけた。

「なに?」
「東さんのそういうとこって、昔から?」
「そういう…?」
「全然物怖じしないって言うか、誰とでもすぐ仲良くなるでしょ」
「そんなことないよ。どっちかっていうと人付き合いは、苦手」
「えー、でもさあ。ライターやカメラマンに信頼厚いし、ウチ来てもすぐ馴染んじゃったし」
「みんながいい人だからだよ」
「そうかなあ…オレ、けっこう尊敬してんスよね、東さんのそういうとこ」

 千歳はパソコンを叩く手を止めて、まじまじと中沢を見てしまった。しかし彼はいつもどおり屈託のない表情で笑っている。
 そういえば、移動した直後の歓迎会でも彼は、同じようなことを言っていた。

「僕は…流されやすいだけだよ」

 低く呟いた千歳に、中沢が何か言おうとしたとき。彼は自分たちの後ろに立っていた男に気付いて、振り返る。

「編集長」
「え?編集長?!」

 無駄口を叩いていたと言われても仕方ない状況に、千歳が慌てて振り返ると、岩橋(イワハシ)がいつもと同じにこにこした表情で立っていた。

「東くんのはねえ、流されやすいんじゃなくって、柔軟だっていうんだよ」
「ああ!そうそう。なんかこう、柔らかいイメージ」

 ぽん、と手を叩いて、中沢が岩橋に同調する。やけに褒めようとする二人の前で、千歳は首を振った。

「編集長も中沢くんも、僕のこと買いかぶりすぎですよ…あんまりおだてないでください」

 少し顔を赤らめる千歳の言葉に、岩橋は腹をゆすって笑うと「ところでねえ」と話を変えた。

「Ren君が京都行くの、もうすぐだったよね?」
「はい。来週水曜からです」
「それね、君も一緒に行って来て」

 何気ない岩橋の言葉に、一瞬躊躇いを感じたものの、千歳は平然とした顔で「わかりました」と応える。
 京都のような歴史のある街へは、あまり近づきたくないのが本心だけど。サラリーマンとして、そんなワガママを言うわけにはいかない。

「ついでに向こうのライターと合流して、三人で例の特集、取材してきてよ。考えたらRen君と東くんって、この企画にうってつけの取り合わせだし」

 妙案に満足げな岩橋に、千歳は苦笑いを浮かべた。冬号の特集記事は「もう一度、修学旅行」だ。
 このテーマで読者層の世代にメジャーな修学旅行先である、北海道、東京、京都、広島、長崎、沖縄を取り上げる。
 確かに蓮と千歳なら同級生なので、そのまま修学旅行のようだけど。

「僕らが一緒だったのは、長崎でしたよ」

 京都は中学生の時だった。
 古都と呼ばれる街には妖しいものが溢れていて、熱を出した千歳はホテルに缶詰。正直なところ、ろくな思い出もないし、それ以来京都へは近づいていない。