【蓮×千歳E】 P:10


 
 
 
 翌朝、千歳がパニックになったのは言うまでもない。

 午前中の休みをもらったことは覚えていたが、千歳はいつもとあまり変わらない時間に目を覚ましてしまった。
 ぼんやり天井を見つめるうち、次第に脳が覚醒してくると、そこが自分の部屋じゃないことがわかる。
 どこだろう?と考えて。
 視界に飛び込んできた家具の配置を思い出した途端、千歳は跳ねる勢いで起き上がった。

 ――蓮の部屋!!

 間違えるはずがない。家事を手伝っていたときに、一度だけ入ったことのある一階の蓮の自室だ。
 血の気が引き、真っ青になった千歳は、周囲を見回して蓮がいないことを確認すると、今度は真っ赤になる。
 モノトーンでまとめられた部屋。
 背の高い彼を支える、普通のシングルより大きなベッド。
 普段蓮が寝ている布団に寝かされていたことがわかると、千歳は無意識にそれを抱きしめていた。

 ――こ、こんなことしてる場合じゃないでしょっ!

 自分を叱咤しながら慌てて布団を離し、ベッドを降りた千歳は、自分のスーツが掛かっているのを見つけて、また動けなくなる。
 恐る恐る自分の身体を見下ろせば、サイズの大きいTシャツと、短パンに着替えていた。
 …蓮に脱がされたのだ。
 それはスーツが皺になるのを気にした、友人として当たり前の行為かもしれないけど。いまだ蓮に恋する千歳にとっては、恥ずかしさでパニックになる事態だ。
 そうなると、余計なことまで思い出してしまう。
 はっきりとはわからないが、確かリビングからここまで蓮が運んでくれたような。逞しい腕が、軽々と千歳を抱き上げてくれた…ような気がする。

 顔を真っ赤にして、わたわたと焦る千歳は、とにかく落ち着こうと、蓮のデスクでイスに座った。
 ふと見下ろしたデスクに、何枚かの写真が置いてある。
 いつか言っていたプライベートで撮った写真かもしれない。引越しのゴタゴタで、まだ見せてもらっていないけど。

 ――ちょっとだけ見ちゃダメかな…

 目の前にある誘惑は、とてつもなく大きい。
 随分迷っていたが、千歳はとうとう誘惑に負けて、写真を手に取った。
 上の方はこの屋敷で撮った写真。庭の様子や、邸内で見かける当たり前の光景。しかし蓮というフィルターを通して見ると、どれも映画のワンシーンみたいだ。
 それから、森の中や、街中の風景。千歳が勤める出版社の付近もある。
 思わず笑みを浮かべ、順番に見ていた千歳は、最後の二枚を見て思わず息を詰めてしまった。

 ――これ…!

 写っていたのは、千歳自身。
 一枚は最近のもの。編集部の打ち合わせスペースで、自分が寂しげに目を伏せている。確か蓮に恋人がいるかどうかを、どうやって聞き出そうかと考えていたときだ。
 もう一枚はもっと古い。

 ――こんなの撮ってたんだ…