翌朝、千歳がパニックになったのは言うまでもない。
午前中の休みをもらったことは覚えていたが、千歳はいつもとあまり変わらない時間に目を覚ましてしまった。
ぼんやり天井を見つめるうち、次第に脳が覚醒してくると、そこが自分の部屋じゃないことがわかる。
どこだろう?と考えて。
視界に飛び込んできた家具の配置を思い出した途端、千歳は跳ねる勢いで起き上がった。
――蓮の部屋!!
間違えるはずがない。家事を手伝っていたときに、一度だけ入ったことのある一階の蓮の自室だ。
血の気が引き、真っ青になった千歳は、周囲を見回して蓮がいないことを確認すると、今度は真っ赤になる。
モノトーンでまとめられた部屋。
背の高い彼を支える、普通のシングルより大きなベッド。
普段蓮が寝ている布団に寝かされていたことがわかると、千歳は無意識にそれを抱きしめていた。
――こ、こんなことしてる場合じゃないでしょっ!
自分を叱咤しながら慌てて布団を離し、ベッドを降りた千歳は、自分のスーツが掛かっているのを見つけて、また動けなくなる。
恐る恐る自分の身体を見下ろせば、サイズの大きいTシャツと、短パンに着替えていた。
…蓮に脱がされたのだ。
それはスーツが皺になるのを気にした、友人として当たり前の行為かもしれないけど。いまだ蓮に恋する千歳にとっては、恥ずかしさでパニックになる事態だ。
そうなると、余計なことまで思い出してしまう。
はっきりとはわからないが、確かリビングからここまで蓮が運んでくれたような。逞しい腕が、軽々と千歳を抱き上げてくれた…ような気がする。
顔を真っ赤にして、わたわたと焦る千歳は、とにかく落ち着こうと、蓮のデスクでイスに座った。
ふと見下ろしたデスクに、何枚かの写真が置いてある。
いつか言っていたプライベートで撮った写真かもしれない。引越しのゴタゴタで、まだ見せてもらっていないけど。
――ちょっとだけ見ちゃダメかな…
目の前にある誘惑は、とてつもなく大きい。
随分迷っていたが、千歳はとうとう誘惑に負けて、写真を手に取った。
上の方はこの屋敷で撮った写真。庭の様子や、邸内で見かける当たり前の光景。しかし蓮というフィルターを通して見ると、どれも映画のワンシーンみたいだ。
それから、森の中や、街中の風景。千歳が勤める出版社の付近もある。
思わず笑みを浮かべ、順番に見ていた千歳は、最後の二枚を見て思わず息を詰めてしまった。
――これ…!
写っていたのは、千歳自身。
一枚は最近のもの。編集部の打ち合わせスペースで、自分が寂しげに目を伏せている。確か蓮に恋人がいるかどうかを、どうやって聞き出そうかと考えていたときだ。
もう一枚はもっと古い。
――こんなの撮ってたんだ…