結局、蓮と待ち合わせのホテルへ着いたのは、予定を三十分オーバーした頃。
取材先でもあるホテルへ入り、フロントで蓮がすでに到着していることを知った千歳は、ベルボーイの案内を辞退して部屋へ向かう。
「蓮、遅くなってごめんね!」
渡されたキーで中へ入り、一応連絡はしていたものの、謝罪の言葉を口にしながら蓮を探した千歳は、びっくりして立ち止まってしまった。
「お疲れ」
窓際のイスにゆったり腰掛け、パソコンを開いている蓮。きっと撮ってきた写真を確認しているのだろうが…問題はそこじゃない。
長い足を組み、千歳を見つめる蓮の指には、タバコが煙をくゆらせていた。
「…ええ!タバコ?!」
「嫌か?」
「イヤっていうか」
「お前の嫁さん、ヘビースモーカーだって言ってただろ。平気かと思ったんだが」
「全然平気だけど!そうじゃなくてっ、タバコ吸うの?!」
「たまにな」
「いつから!!」
「大学から。千歳?」
あまりにも驚く千歳に、蓮の方こそ戸惑う表情を浮かべた。
「だ、だって初めて見たから…驚いて」
しどろもどろに言い訳をしつつ、千歳はあたふたと荷物を置いた。本当のことなんか、言えるはずがない。
――…めちゃくちゃカッコいい!
けだるい表情でタバコを咥える姿。手馴れた様子でそれを操る蓮は、まるでドラマの中の人物のようだ。
形のいい唇に挟まれているタバコが、羨ましくさえ思えてしまう。
「そうだ、少しは寝た?」
「まあな」
「こっちの担当の林さんが、夕食一緒にどうですかって。いいかな」
「ああ」
「蓮に会うの、すごく楽しみにしてたよ。会話が上手で楽しい人だった」
千歳は荷物を適当に片付ける間も、立て続けに喋ってしまう。先ほどまで一緒にいた林の影響もあるかもしれないが、それよりさっき見た蓮の姿にドキドキしている、自分を誤魔化すためかもしれない。
――いきなりあんな姿見せるの、反則だよ…顔、熱い。
火照る頬を押さえながら、なかなか自分の方へ寄ってこない千歳を蓮が呼んだ。
「な、なに?」
「夕飯の待ち合わせは何時だ」
「七時だから、あと二時間くらいかな…もう少し寝る?」
「いや、いい。それより座れ」
「え…あの」
「いいから座れ」
テーブルを挟んだ前のイスを示され、仕方なく千歳はそこへ腰掛けた。