【蓮×千歳F】 P:05


 千歳が聞いて欲しいと訴えていたその話の内容を誤解し、勝手な期待を抱いてしまったのは、蓮の一方的な思い込みだ。
 わかっているのに、
気持ちは静まってくれない。
 蓮自身でさえ持て余している、乱暴な感情。繊細な千歳が、それに気付かないはずはなくて。

「あの…待ってよ、どうしたの?」
「無理だと思うからそう言ってる」
「蓮、僕は本気で…っ」

 少し離れたところにおいてある荷物に、広げていたものを仕舞った蓮は、無表情に千歳を振り返った。
 誤解したのは自分が悪い。わかっているのに、不安げな千歳を見ていると、彼を傷つけるような言葉ばかり探してしまう。
 …どうしても、抑えられない。
 突き刺さるような視線を感じ、千歳は息をつめて蓮を見つめていた。

「お前は逃げてばかりだからな」
「あ…」
「いつだってそうだろ。嫌だから。怖いから。わからないから。そう言ってお前は、逃げてばかりだ」
「蓮…」
「向き合う気のない奴に、何を言っても無駄だ」

 千歳の目から涙が零れるのを見て、蓮は目を逸らす。そのまま無言で貴重品の入ったカバンを手に取ると、千歳に背を向けてしまった。

「七時だったな。ロビーでいいだろ」
「待ってよ、ねえ蓮」
「もう話すことはない」

 振り返ってもくれない蓮の手で、ホテルの重い扉が閉まった。
 豹変した蓮の態度に千歳は、座り込んで泣くことしか出来なかった。