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待ち合わせの時間にちゃんとロビーへ現れた蓮は、口数が少ないながらも、普段と特に変わった様子はなかった。三人で食事をしている間も、林の話に耳を傾け、時々は笑っていて。
撮影の前日は酒を飲まない蓮と、元々酒に弱く、その上今日はまったく飲む気にならない千歳を、酒豪だという林は残念がっていた。しかし飲むのは取材の最後の日にしようと笑い、食事だけを済ませて千歳たちをホテルまで送ってくれたのだ。
それまでは普段通りに話していたが、ロビーで林と別れ、二人きりになると会話がなくなる。
気まずい沈黙のまま部屋へ戻り、千歳はバスルームに閉じこもってしまった。
一応入る前、先に使うね、と声を掛けたが、蓮は何も答えてくれなかった。帰ってくるなり部屋を突っ切り、荷物をベッドへ投げ出すと、窓際のイスに座ってタバコに火をつけたまま何も言わない。
千歳は、ホテルが用意している浴衣を着て、便座のふたに座り込む。
――お前は逃げてばかりだからな。
蓮に言われたセリフが、ざっくり突き刺さっていた。
確かにその通りかもしれない。
何かを突きつけられたとき、千歳はいつもそれを受け入れてしまう。嫌だと思っていたって、反論はしない。流れに身を任せるばかりだ。
それは、逃げているのと同じこと。
ラジャの気持ちに応えたいと言ったのは本当だ。でも怖いと思う気持ちだって、本心。どちらかを変えるしかないのに、そうするだけの勇気がない。立ち向かわないならやはり、結局逃げているのだろう。
でもまさか、あんな風に蓮から責められるとは、思っていなかった。
「さすがに愛想が尽きたのかな…」
声にするとたまらなくて、じわりと涙が浮かんでくる。
いつもいつも、ありのままの千歳を受け止めてくれた蓮。いい加減、何も出来ない自分の相手をするのは、面倒になったんだろうか。
身体が切られるように痛い。
千歳は自分の身を抱きしめる。
ここを出て、蓮の目を見て、「ちゃんと頑張るから見捨てないで」と言えば、何かが変わるのか。
いや今まで口先だけだった自分を見透かされ、拒絶されて何もかも終わってしまうのかもしれない。
わからない。
閉じこもっているだけでは、答えなんか出ない。
どうしよう。
どうしたらいい?
白いバスルームのドアを見つめて答えを探していると、沈黙の扉がトントン、と外側から鳴った。
「千歳、大丈夫か?」
抑揚のない声に心配の色。
あまりにも出てこない千歳が、中で倒れているんじゃないかと、心配になったのだろう。
気遣ってくれる蓮に、千歳は自分の手を握り締めた。
ゆっくりドアを開ける。
変わりない千歳を確かめて、また離れていこうとする蓮を、引き止める。
「蓮…っ」