【蓮×千歳G】 P:02


 それにその方が、千歳も少しは気が紛れるだろう。
 ホテルを出るとき買ってきた、お茶のペットボトルに手を伸ばそうとした蓮に気付き、千歳は先にそれを手に取って、ふたを外してから、蓮に差し出す。

「じゃあ…えっと、何を話そっか?」
「そうだな…。色々あったとは聞いたが、どういう経緯で嫁さんと結婚したんだ?」

 十年千歳を待っていた、蓮はそう言ってくれた。彼の知らない十年間。その間に千歳は理子(リコ)と結婚し、虎臣の父親になったのだ。
 経緯を詳しくは話していないことを思い出して、千歳はシートに座りなおした。

「あのね、僕が住んでた下宿の隣に、大家さんが住んでて」
「大家?」
「そう。すごく元気なおばあちゃん。優しくて、料理が上手で…」

 千歳の話を蓮は、言葉少なに聞いてくれる。
 五年前に他界した理子の祖母。そこで出会ったまだ幼い虎臣。
 虎臣の母親である理子と言葉を交わすようになって、千歳はなんだか彼女が蓮に似ているような気がした。

「俺に?」
「う、うん」
「…へえ」
「だって理子さんも言い方きついけど、すごく優しいし、意思が強くて、美人で…あの、えっと…そうじゃなくてだから」
「何も言ってないだろ」

 くすくす笑う蓮に、千歳も蓮をずっと忘れられなかったと知られて、赤くなる。
 忘れたことなんかなかった。ずっと蓮が好きだった。
 蓮への消えない想いを理子に投影した千歳は、自分の気持ちを勘違いしてしまう。でも結婚した後でそれがわかった時、理子は理解を示してくれた。

 蓮が眠くならないように話しかけていたはずが、いつの間にかこの十年に重ねた想いの告白になってしまっている。
 しかし虎臣の名前を口にするたび、少し千歳の表情が翳るのを見て、蓮は余計な口を挟まず話を聞いていた。

 夜空が白くなり、周囲がどんどん明るくなってくる。
 高速に表示される表示が、知っている地名になってきた頃には、しだいに車も増えてきて。千歳に焦りが戻ってくる。
 それを察した蓮は「もう一時間もかからない」と声をかけ、千歳の手を握ってくれた。