南国荘の裏手にある駐車スペースに、蓮が車を停めた。千歳は助手席から飛び降りて、屋敷の中へ駆け込んでいく。
虎臣は部屋だろうか?
急いで自分たちの部屋がある二階へ上がろうとしていた千歳は、駐車スペースから近い、普段はあまり使わないキッチンの奥の、勝手口から屋敷に入った。
そこから階段のあるホールへ向かおうとしていたのだが、リビングから楽しそうな声が聞こえてくるのに気付き、先にそちらへ向かう。
ダイニングテーブルには、いつもと同じように榕子の姿。隣に褐色の肌のラジャ。
そして、彼らの向かいに座っている後姿は、制服姿の虎臣だ。
「…とら、くん…?」
「あら、ちーちゃんおかえりなさい」
「千歳さん!帰ってきてくれたの?!」
嬉しそうな顔で振り返った虎臣と、状況が理解できない千歳を見て、榕子は不思議そうにラジャを見上げる。少し浮いた状態で榕子と虎臣を見守っていたラジャも首をかしげ、二人は顔を見合わせた。
「虎くん…ケガは…」
「あ、えっと…その、昨日は痛かったんだけど、平気みたいで…」
「ケガって昨日、転んだ時の?大したことないって言うから、ちーちゃんには連絡しなかったんだけど。ちーちゃん、どうして知ってるの?」
何も知らない榕子に全てをバラされてしまった虎臣が、気まずい表情を浮かべる。
千歳はさあっと青ざめた。
「…どういうこと?」
「だって…千歳さんに帰ってきて欲しかったから、その…」
「嘘、だったの?」
千歳の後ろから、蓮が姿を現した。
二人そろって帰ってきたことを知り、虎臣はぎゅっと眉を寄せる。
「なんでアンタまでいるんだよ?帰って来てって言ったのは、千歳さんだけなのに」
「僕の質問に答えなさい!」
声を荒げた千歳は虎臣に近づくと、厳しい表情で少年を見据えた。
「千歳さん…だってボク」
「嘘をついたのか、ついてないのか、どっちなのっ」
「だから、その」
「はっきりしなさい!」
幼い頃から今まで、虎臣は千歳からこんな風に、叱責されたことがない。
いつだって虎臣を叱るのは理子の役目で、千歳は虎臣を庇い、慰めてくれた。
むうっと拗ねた顔になる虎臣は、仕方なく自分の嘘を認めたが、反省しているようには見えない。
「嘘ついたのは、悪かったと思ってるけどさ。だって千歳さんがアイツと二人で旅行なんて、そんなのイヤだったしそれに…」