【蓮×千歳G】 P:05


 千歳の心の中がぐしゃぐしゃになっていることぐらい、蓮にはお見通しだ。自分が苛立っていることを自覚して、千歳は仕方なく頷いた。
 俯いていた顔を上げる。
 泣き顔がいつもの千歳に戻っているのを見て、蓮が息を吐く。その穏やかな瞳に自分が映っているのを見て、千歳も少し落ち着きを取り戻した。

「林(ハヤシ)さんには落ち着いてから連絡しろよ。今の状態じゃ、余計に心配させる」
「うん…」
「昼の新幹線で戻ろう。どうせあとは街中の撮影だ。俺も車を置いていく」
「わかった。何時にする?」
「そうだな…11時に出るか。昼の新幹線に乗れば、3時には着くだろ」
「ん…ありがと」

 蓮に笑いかけ、リビングを出て行く千歳は、虎臣の方を見ようとしない。
 今まで一度も千歳に冷たい態度を取られたことのない虎臣は、愕然として去っていく千歳を見送っていた。

「千歳さん、怒ってた…」

 落ち込む虎臣を心配そうに見つめ、榕子は隣で同じように眉を寄せているラジャを見上げる。

「ねえラジャ…ち−ちゃんのことお願い」
『わかった』

 そっと榕子の額に口付けて消えた彼を、蓮も虎臣も見ることが出来ない。でも千歳なら、話すことが出来る。
 きっと眠れないまま、部屋に閉じこもっているだろう千歳をラジャに任せ、榕子は虎臣を慰めるために立ち上がった。しかしじっと少年を見つめている息子に気付き、椅子に座りなおす。
 俯く虎臣を黙って見ていた蓮は、静かに彼の前に立った。

「どこまでが嘘なんだ」
「え…?」

 泣きそうな顔を上げ、虎臣は蓮の顔を見て悔しそうに眉を寄せている。

「アンタだって、怒ってんだろ」
「別に」
「嘘だね!怒らないはずないじゃんっ、千歳さんだって、あんな怒ってんのに…」
「いいから、どこまでが嘘かと聞いてるんだ。言ってみろ」

 目の端を赤くして、今にも泣きそうな虎臣は、蓮から目を逸らし、ぼそぼそと呟いていた。

「車と当たりそうになって、コケたのは、ホント」
「怪我は」
「してない。…ちょっと足首が痛いだけ」

 虎臣の言葉に膝をついた蓮は、嫌がる彼の足を無理やり引き寄せて、虎臣が無意識に庇う足を確認する。
 強引に靴と靴下を脱がせ、制服を折り上げた蓮が、探るような手つきで何度か足首を押していると、赤くなっている部分で虎臣がぎゅっと目を閉じた。

「痛いってっ!」
「腫れてんな。捻ったんだろ」
「…そうかも」
「ったく。バカな奴」

 むっとして蓮を睨む虎臣に、それ以上何も言わず、蓮は黙ってキッチンの棚に置いてある救急箱を取りにいくと、中からシップを何枚か持って戻ってきた。