【蓮×千歳G】 P:07


「こんなことぐらいで、千歳がお前を嫌うはずないだろ」
「適当なこと言うなよなっ」
「あいつが京都からここまで、どんなにお前のことを心配していたか、想像がつかないか?」

 車の中で蓮と話している間も、千歳はずっと両手を握り締め、虎臣の無事を祈っていた。

「俺にとってお前は、生意気なガキでしかない」
「わかってるっ」
「だが千歳は違う。あいつにとって、お前は大切な息子だ」
「………」
「腹が立っただろうさ。…お前に嘘を吐かせた自分に。手を上げてしまった自分に。あいつはそういう奴だ」

 無表情の低い声で話す蓮が、訳知り顔に見えて。苛立った虎臣は、目の端を吊り上げた。

「…ムカつく」
「なんだと?」
「何でもかんでもわかってる顔して!アンタのそういうとこ、マジでムカつくっ」

 蓮を睨みつけて喚く虎臣は、溜め込んでいた不満を片っ端から口にし始めた。

「オレはずっと千歳さんと一緒にいたんだぞ!アンタなんか十年も千歳さんのこと放っておいたんじゃん!なのになんで当然って顔で、あの人のそばにいるわけ?!千歳さんが仕事忙しくて大変だったときも、千歳さんが会社で嫌な思いしたときも、一緒にいたのはオレと理子なんだからなっ」
「…知ってる」
「アンタが来るまで、千歳さんは全部オレと理子のものだったのに。あの人が笑うのも泣くのも、全部オレと理子が見てきたのに!」

 でも千歳は、この男を忘れようとしなかった。それがわかっているからこそ、悔しいのだ。
 家族としてどんなに愛し合っていても、蓮が現れただけで全部なくなってしまう気がした。
 泣きじゃくる虎臣を前に、蓮は嫌そうな顔で肩を竦める。

「知ってると言っただろ」
「…何を知ってんだよ。アンタなんかオレたち家族のこと、何にも知らないくせに」
「知ってたさ」
「だから、アンタなんか…」
「知ってるって言ってんだろ!」

 急に大きな声を出され、びっくりして虎臣は口をつぐんだ。

「お前らのそばで千歳が幸せそうに笑っていたのも。お前らに支えられて、どんなに千歳が救われたかも、知ってたから俺は、あいつを奪い返しに行かなかったんじゃないか!」
「え…」

 蓮の言葉を理解すればするほど、虎臣は目を見開き、自分の前に立っている男をまじまじと見つめていた。
 今、彼はなんと言ったのか。
 虎臣と理子のそばで笑っていた千歳を、十年もの間離れていたはずの蓮が、知っていると言わなかったか。