本当の意味で親子になるという、覚悟に欠けていたのも確かだろう。
「理子さんだったら、どうしたのかな…」
あるいは、蓮を育てた榕子なら。あんなとき子供に何と言って、諌めたのか。
自分では虎臣に何もしてやれない。
千歳は頭の下の枕を取ると、それをぎゅっと抱きしめた。
虎臣を預かるなんて、おこがましいことをよく言えたものだ。どれほど理子に詫びても、許されることじゃない。
目頭が熱くなって、涙が零れてくる。
大人としても父親としても、自分は失格だ。虎臣のそばにいる資格なんかない。
ぎゅうっと身を小さくしている千歳を、部屋の外から呼ぶ声がした。
『チトセ』
この声は、ラジャだ。
千歳は抱きしめていた枕を離し、目元を拭ってベッドの端に腰掛けた。
「はい」
『入ってもいいかい?』
「あ…えっと。大丈夫です」
どんなに後悔して、混乱している状況でも、根源的な恐怖は消えない。でも今は、誰かと話がしたかった。
少し間を置いて、ドアからすうっと男の姿が通り抜けてくる。びくっと肩を震わせた千歳を見て、ラジャは申し訳なさそうに眉を下げていた。
『怖がらせてしまったかな』
「い、いいえ」
『少しキミと話をしたいんだが、構わないだろうか?』
先ほども榕子の隣に少し浮いた状態で、ことの成り行きを全て見ていたラジャだ。何か苦言を零しに来たのかもしれない。
だとしたら甘んじて受けるべきだろう。
まっすぐ彼を見ることはさすがに出来なくて、千歳は俯きがちなまま頷いた。
音もなく、流れるように千歳の前まで来たラジャが首をかしげると、豪華な耳飾りがさらさら音を立てる。
『後悔している顔だね』
「…はい」
『ワタシはキミの判断が、正しかったと思うよ』
思ってもみなかったことを言われ、千歳はおずおずと顔を上げる。ラジャは優しい笑顔で千歳を見下ろしていた。
「ラジャさん…でも、僕には虎くんを叩く資格なんか、ないです」
『チトセは彼の父親なんだろう?間違いを正すのは、親の務めだ』
静かな言葉だったが、千歳は下を向いて首を振った。
「僕には虎くんの父親になる資格なんか、なかったんだ」
『チトセ…』
「だって僕は…あの子に何もしてあげられない…」
甘やかすばかりで、一方的に愛情を注ぐだけで。彼の将来に何も出来ない。