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『しかし言い訳ひとつしないレンを、庇いきれなくなってしまってね。思わず手を上げてしまったんだ』
「………」
今でも他人に対して無口な蓮。自分を守るための言い訳なんて、幼い頃でも口にしなかっただろう。千歳にはその場を見なくても、容易に想像できてしまう。
『泣きながら叩いたそうだ。そうして、盗まれたと訴える者に、無理やりレンの頭を下げさせた。ワタシがそばにいれば、蓮についていた精霊が見たことを話し、レンの潔白を証明してやれたんだが。この南国荘を離れられない身では、全てが終わってから知ることしか出来なくてね』
「蓮は?蓮はその後どうしたんですか?」
まるで今の蓮が疑われているかのように心配する千歳を見て、ラジャは苦笑いを浮かべる。
『レンはこの屋敷に帰ってきてすぐ、姿を消してしまった』
「え?!」
『心配することはない。庭に隠れていただけだ』
「あ…良かった…」
ほっと息を吐いて、千歳はかつての小さな蓮を思う。
どんなに悔しかっただろう。
ヒトである父を知らない蓮にとって、榕子はただ一人、自分を信じてくれるはずの存在だったのに。
『ワタシはヨウコにレンの居場所を告げ、朝までそっとしておきなさいと話した。きっと自分で話すだろうとね』
「…ラジャさんには、ちゃんとわかってたんですね?蓮がそんなこと、するはずないって」
他人のものを盗むなんて、いくら子供の頃でも蓮がするはずない。千歳の言葉にラジャは、はっきり頷いた。
『もちろん。レンを信じているから、というだけじゃない。ワタシには罪を犯した者が必ずわかるからね。…嘘を吐いているのは誰か。盗みを働いた者は誰なのか。どんな言い訳も、ワタシには通じないんだよ』
「………」
『しかしワタシの声は、けしてあの子に届かない。もどかしかったね。ワタシでは精霊たちに木の葉を集めさせて、帰ろうとしないレンに寝床を作ってやることしか出来なかった』
「でも、ラジャさんは蓮を守ってくれたんでしょう?」
蓮なら自分で考えられると信じて。時間をかければ榕子の気持ちがわかるはずだと思ったから、静かに蓮を見守っていた。
千歳はこの南国荘で、ラジャが木の葉を揺らしているのを、何度か見ている。植物や水のように、自然物なら簡単に触れられるんだと、榕子も言っていた。
落ち着いた洋館である屋敷とはかけ離れた、熱帯植物の溢れる南国荘の庭。小さな蓮はラジャに守られ、夜を明かしたのだろう。