「可愛いね」
「言ってろ」
「暗くなったりすると、怖くなかった?」
「別に」
「すごいな…僕なんか余計に泣いちゃいそうだけど」
「お前だったら、泣いてるな」
蓮に笑われて、千歳はむうっと拗ねた顔になる。
「これだけたくさんいたら、さすがの僕でも慣れてたと思うな」
「どうだか」
「ここにはラジャさんもいるし」
「ああ…確かに」
もっと小さい頃に蓮と知り合えていたら良かった。そうすれば榕子やラジャのそばで、千歳は今と違う視線を持っていられただろう。
――まだ、間に合うかな…?
この南国荘で、自分と同じようにヒトではないものが見え、声を聞く榕子や、穏やかに話しかけてくれるラジャと一緒に暮らしていけば、怖いと怯えるばかりの自分も変わっていけるだろうか。
蓮の言う「理解」をするために、千歳はもう少し、精霊たちのそばにいた方がいいかもしれない。
自分の考えを聞いてもらおうと顔を上げた千歳の前で、蓮があくびを噛み殺していた。
「あ、ごめん。疲れてるのに」
「気にすんな」
「でも…ねえ大丈夫?蓮だけでも京都入りは明日にする?」
そっと額に手を当てる千歳を、いやに深刻な顔で見つめた蓮は、はあ、と息を吐き出した。
「蓮?」
「いや、少し寝れば何とかなるだろ」
「でもさ」
「どうせ新幹線の中でも寝られるしな。いいからお前もちょっと付き合え」
「ええっ!?」
言うや否や千歳の肩に手を回し、蓮は強引に自分部屋へ連れ込んだ。
焦ったのは千歳だ。触れた手の熱さに、京都でのあれやこれやを、嫌でも思い出してしまう。
もうしない?と聞いた千歳に、蓮は「今日はな」と微妙な答えを返していた。
積年の想いを受け入れてもらえたのは嬉しかったが、いきなりは勘弁してほしい。
「ちょ、ちょっと待って!確かに日付は変わったけど、まだ心の準備が…」
焦って抵抗する千歳を見て、蓮は苦笑いを浮かべた。
「馬鹿、なに慌ててんだ」
「え?」
「さすがに今は、そんな気力ねえよ」
夜通し高速を走って、撮影して、仮眠を取って、千歳と揉めた挙句に、東京までまた運転してきたのだ。体力には自信のある蓮でも、今から千歳を押さえつけるには気力が足りない。
千歳を連れたまま自分の部屋へ戻った蓮は、細い身体を抱えたままベッドへ倒れ込んでしまう。
「ちょっと…蓮?」
「起きるまで、2時間半ってとこか…」