勝手なようだが、こうして見ていると、今まで怖がるばかりだった自分が、不思議に思えて仕方ない。
彼らには彼らなりの上下関係や、友好状態があるようだ。基本的に自分たちのことで手一杯の精霊たちは、そばに千歳がいてもあまり気にしてはいない様子。
蓮に淹れてもらった番茶を飲みながら、手伝うと言い張って預かった洗濯物をたたむ千歳の前で、現在、三人の小さな精霊たちが、ひとつの花を取り合い中だ。
何かよほど大事な花なんだろうか。その姿は子供がおもちゃを奪い合うようで、見ていてかなり微笑ましい。
耳の尖った緑っぽい肌の精霊と、首から上だけ鳥みたいな精霊と、ひときわ小柄で羽がある以外にヒトとあまり変わらないカタチの精霊。
この小さな子は、前から千歳も知っている。彼はいつも南国荘の中、リビングの窓辺にある観葉植物の鉢植えのそばにいる子だ。
精霊たちを統べる立場だと言っていたラジャからも、千歳と同じように彼らを見ることの出来る蓮の母、榕子(ヨウコ)からも、この子だけは屋敷の中にいることを許してやって欲しい、と前から言われていた。
――この子が一番、怖くないんだよね。
南国荘にいる精霊たちには、千歳もようやく慣れてきた。蓮やラジャがそばにいてくれるという、安心感もあるだろう。
いや、今でもやはり、怖いことは怖いのだ。しかし千歳が屋敷の外で見かける、他の妖しい存在と違い、南国荘の精霊たちには明るさがある。そのせいか、幼い頃から千歳を苦しめていた、あの身体が冷たくなっていくような恐怖を、ここの精霊たちは感じさせない。
中でも、この鉢植えのそばにいる精霊だけは、最初に会ったときから不思議なくらい怖いと思わなかった。
見た目の問題かもしれない。
大きさ以外、自分とあまり変わらない容姿の精霊だから、表情も読み取りやすい。臆病な彼はいつも鉢植えの影から千歳を見つめ、同じくらい臆病だった千歳も、蓮の影から彼を見ていた。
――あっ!
千歳は思わず、洗濯物をたたむ手を止めた。
花の奪い合いも佳境に入っている。
自分より大きな二人の精霊に結託され、いつも鉢植えのそばにいる彼は、花を取り上げられてしまった。
――あ〜…取られちゃったか…
勝ち誇る二人に、しゅんと肩を落とした彼は、いつものように鉢植えの影に隠れてしまった。
最初に花を持ってきたのはこの子だ。
経緯を見守っていた千歳としても、内心応援してただけに、少し残念な気がする。