きれいな花を手に入れた二人の精霊は、それを持ってふわりと浮かび上がった。
どうするのかと見ていたら、彼らは千歳の前まで飛んで来て、それを差し出した。
「え、僕に?」
自分を指さし、首をかしげる。
大きく頷く精霊たちの前に、千歳がおずおずと手を出した。すると彼らは、持って来た花を、そっと千歳の手のひらの上に落としてくれる。
「えっと…くれるの、かな?」
なんだか自慢げに千歳を見ている二人。
どうだと聞かれているみたいで、千歳は躊躇いがちに笑ってみる。
「あの…ありがとう。きれいだね」
大きなハイビスカスの花。千歳は知らないが、今日咲いた花の中で一番最初に開いた花だ。
そうしてやっと気付く。彼らが千歳に渡すため、そのハイビスカスを取り合っていたことを。
彼らが欲しかったのは、花じゃない。
千歳に渡すという権利。
「そっか…ほんとにありがとう。部屋に飾っておくから」
伝わるかどうか、わからないけど。
感謝を伝える千歳の言葉を聞いた二人の精霊は、嬉しそうな様子で窓から庭へ帰って行った。
「ん〜…今まで怖がってばっかりで、悪かったなあ」
この屋敷に来た当初から、榕子に言われていた。千歳が精霊たちと仲良くなれるのを、楽しみにしていると。
苦笑いでもらった花を見つめる千歳は、肩を落としてしまう。
今だって庭にいるたくさんの精霊を、一度に見るのは苦手だ。理性とは違う部分で身体が震える。
でも彼らが千歳が落ち着くのを、本当に待っていてくれたのだとしたら。一方的な拒絶を見て、どれほど残念に思っていただろう。
「終わったか」
急に声をかけられ、千歳は慌てて後ろを振り返った。
「蓮!ちょっと待ってね、あと一枚」
貰った花を湯呑みの隣に置いて、洗濯物をたたむ千歳の隣に、蓮が腰を下ろした。
「どうした?」
「何が?」
「ハイビスカス」
「ああ。貰ったんだ…その、庭の精霊さんたちに」
はにかむ千歳の表情に、蓮は少し驚いていた。あんなに怖がっていた千歳が、自分一人の時間に、精霊たちから花を受け取ったなんて。
「…良かったな」
「うん!あ、でもね…」
言いながら最後の一枚をたたみ終わる。蓮はそれを受け取って、千歳とは反対側の隣に置いた。
「あの、窓際の鉢にいつもいる子が、負けちゃったんだよね…」
「負けた?」
「そう。最初に花を取りに行ったのはあの子なんだけど、他の精霊さんたちと取り合いになって。2対1だったから、負けちゃったんだ」