【蓮×千歳I】 P:06


「う、うん。虎くんが寝ちゃった後は…あんまり明るくしてるの、可哀想だし」
「だったら俺の仕事場使えよ」
「蓮の?」
「ああ。その方が集中できるだろ」

 ついて来いと促され、千歳は火照る頬を押さえながら、蓮の後ろを歩く。
 なんとなくだが、いきなりキスをしておいて、あっけらかんとしている蓮が、キスを日常化しようとしている気がして仕方ない。

 ――ムリだよ、そんなのっ!

 精霊やラジャに慣れるどころの話じゃない。今でも心臓が、どきどきと大きな音を刻んでいる。
 蓮が振り返らないのをいいことに、千歳が息を整えていると、蓮は千歳が入ったことのない部屋の前で立ち止まる。

「ここだ」
「…入っていいの?」

 南国荘に引っ越してきて結構経つが、まだ一度も足を踏み入れていない。その部屋は、蓮の部屋の向かい側。

「別に隠してるわけじゃないさ」
「でも入ったことないし…」
「そうだったか?」
「そうだよ」

 躊躇う千歳の前で、蓮が大きく扉を開いてくれた。
 中にはカメラの機材や、大きな棚、パネル、パソコンなどが、几帳面な蓮の性格を現すように、整然と並んでいる。

「入れよ」
「うん…お邪魔します…」

 誘われて中へ入ったものの、千歳はその場で足を止めてしまった。
 蓮の写真が作品になる仕事場。
 カメラマンの事務所やスタジオへは何度か行ったこともあるが、こんなにきれいに片付いているところは初めてだ。それに、無造作に置いてある蓮の写真が千歳を釘付けにしてしまう。

「こっちのデスクが空いてるから、使ったらどうだ?」
「………」
「奥のドアから向こうは暗室だ。あそこと機材には触らないでくれ」
「………」
「他は自由に使うといい」

 呆然と部屋を見回している千歳を振り返り、蓮は苦笑いを浮かべた。

「千歳?」
「…ねえ、蓮」
「どうした」
「お願いがあるんだけど」
「何だ」
「蓮が大学のときに賞を取ったっていう写真、ここにある?」

 じっと蓮を見つめる千歳の瞳が、潤んで濡れている。
 蓮は黙って部屋を横切ると、棚の引き出しを開けて、大きなサイズの写真を一枚引っ張り出した。

「パネルは展示の後、大学に引き取ってもらったから、ここにはないけどな」

 渡された写真に視線を落とす。
 千歳は涙が溢れてくるのを感じて、唇を噛みしめた。