【蓮×千歳J】 P:02


 今の蓮よりずっと幼くて不安定な、剥き出しの感情を捉えた写真だった。

「これ…」
「待ってたんだ」
「れ、ん」
「お前が戻ってくると思って…俺は先に帰った榕子さんが心配して探しに来るまで、あの場所で待ってた」
「っ…!」

 見開いた千歳の目から、ぼろぼろ涙が零れていく。
 高校の卒業式が終わった後。
 逃げ出した千歳が部屋で泣いている間、蓮はずっと写真を撮りながら、その場で千歳を待っていた。

「って…だって蓮、そんなこと言うと思わなかったって…」
「ああ。いまだに思ってるよ。お前があんなこと言うとは思わなかった」

 一番好きな声で、一番辛い言葉を繰り返され、千歳は苦しげに目を閉じる。それを見ながら蓮は、言葉を繋いだ。

「俺には何と言えばいいのか、わからなかったから」

 蓮も思い出している。あの日のこと。
 何度考えても相応しい言葉が浮かばなくて、苦しかった。
 朝、目が覚める前からずっと、千歳のことばかり考えていた。

「…お前を失わないため、お前ともっと近い存在になるために、俺は何を言えばいいのか。大学に入ったら下宿すると言っていたお前の部屋に、当然の顔で居座る理由を、ずっと考えてたんだ」

 一緒にいて。そう囁いた千歳の言葉がどんなに嬉しかったか。伝わればいい。
 蓮は手元に視線を落とし、幼かった自分を思い出す。

「いつだって俺のそばで、びくびく怯えていたお前が、まさか自分からあんなこと言うと思わなかった。正直、驚いたよ。でも同時に、お前の勇気を尊敬してた」

 もう少し千歳が待っていたら。
 あの場を逃げ出さなかったら。
 次の言葉を待っていられたら、こんなにも遠回りしなかったのに。

「ごめ…なさ…っ」

 泣きじゃくって謝る千歳を、抱きしめてやりたかったけど。蓮は手にした箱を握り締めて、じっと堪えていた。

「ごめんなさい…ごめんなさいっ」
「謝らなくていいんだ、千歳。俺の言葉が足りなかった」

 千歳ばかりを責められない。
 蓮だってあの時、もう少しちゃんと答えられていたら。
 すぐに振り返って千歳を捕まえていれば、二人してこんなにも長い時間を、苦しまなくても良かったのだ。

「お前を恨まなかったとは言わない。大学に入った頃は、手が付けられないほど荒れてたよ。千歳を逆恨みして、お前に俺がわからないなら、もう誰も俺のことを理解出来ないんだと勝手に拗ねてた」
「蓮…」
「ガキだったよな…せっかく入った大学なのに、授業もろくに出てなかった」

 苦笑いを浮かべ、懐かしそうに話す蓮を見て、千歳は涙を拭う。