【蓮×千歳J】 P:04


「心配すんなよ。未練がましく諦めなかったから、俺はここにいるんだろ。何度通ったか知れないんだ、お前のところ。自分でも馬鹿だと思ってる」

 蓮の話を聞いて、ストーカーのようだと言ったのは虎臣だったが、本人も己の浅はかさを自覚しているのだ。
 声をかけることも、手紙を置いてくることさえ出来ないくせに、何度も何度も蓮は千歳の元へ足を運んでいた。

「呆れたか?」

 自分の方こそ呆れた声で聞く蓮に、千歳は思いっきり首を振る。
 こんなにそばにいてくれたのに。
 自分は少しも気付かず、ただ理子に蓮の姿を重ね、勘違いして毎日に流されていたのだから。
 泣きやまない千歳の前で、肩を竦めた蓮は、最後の一枚を箱から抜き取り、立ち上がった。

「じゃあ、呆れさせてやろう」
「蓮…?」
「俺はそうとう未練がましくて、しつこい男なんだよ」

 どさっと千歳の隣に腰を下ろし、手にしていた写真を差し出した。
 受け取った千歳は写真に目を落とし、今度こそ驚いて咄嗟に声も出ない。

「こ、れ…」
「いい絵が撮れてるだろ?」
「来てたの?!」
「まあな」
「なんで!」
「…教会の取材をしてるとか何とか、適当な言い訳をしたら、中に入れてくれた」

 自分で自分を嘲笑う蓮。
 千歳の手の中には、幸せそうな一組の新郎と新婦が写った一枚の写真。
 真夏の暑い日だった。肘まである長い手袋をつけた理子が、夏にするもんじゃないと愚痴っていたのは、今でも覚えている。

 虎臣と、理子の祖母しか出席しなかった結婚式。
 千歳は自分の親にさえ、日取りを教えなかったのに。

「どうやって、結婚式の日にちや、教会の場所を…」
「大家のばあさんに聞いた」
「ええっ?!」
「いい人だったよな。何度も通っていたせいで彼女に見つかったんだが、千歳に言わないでくれって頼んだら、本当に秘密にして、墓場まで持って行ってくれた」
「そ、んな…」
「ばあさんの葬式には、俺も行ってたよ。さすがに記帳はしなかったが」

 蓮は目を細めて、気丈で優しかった理子の祖母を思い出していた。
 未練がましく千歳の元へ通い続けていた蓮を、彼女はいつも心配してくれた。
 どうすることも出来ないなら、ちゃんと自分のことを考えなさい。何度も蓮はそう言われたのだ。

「千歳の結婚式を見て、俺が覚悟を決められるならと、彼女は教会の場所を教えてくれた。幸せそうな夫婦を見て、確かに俺も諦める気になっていた」
「蓮…」
「ま、そう思いながらも俺は諦め悪く、お前の会社の仕事ばかりを請けていたんだ。お前の姿を見たいばかりに。…ちょうど岩橋(イワハシ)さんが可愛がってくれてたしな」