言うや否や蓮は千歳の身体を押し倒し、唇を重ねる。少し肩を震わせたものの、千歳はもう逃げようとしない。
ゆっくり離れた蓮は、睨むような真剣な眼差しで、千歳の瞳を覗き込んだ。
「愛してる」
「蓮…」
「愛してるよ、千歳。もう離してやらないからな」
「…うん」
「お前がどこへ逃げようと、地の果てまで追いかけていって、捕まえる」
俺はしつこいんだよ。そう零して笑った蓮の首に、千歳は自分から腕を回した。
「どこへも行かない…」
「ああ」
「蓮が、好き…ずっと好きだった…」
あの日もこう言えば良かった。
ちゃんと蓮に向き合って、理解してもらえる言葉で伝えられたら良かったのに。
そうしたら今と同じくらい、嬉しそうに笑う蓮を見られたはずだ。
「長い間待たせて、ごめんなさい」
「いいさ。たかが十年だ」
「…これからの十年は、一緒だよね?」
「その先の十年は?」
「えっと…それはまた、十年後に考えようかな」
悪戯っぽく笑う千歳を見て、蓮は可笑しそうに肩を竦めている。
「考えるまでもない」
「え?」
「俺が逃がさないから」
何度も何度も、ついばむように重なるキスを受ける千歳は、唇が甘いって本当だったんだ。と、どきどきしながら考えてしまう。
一番好きな人とするキス。
やっとお互いに分かり合えた、最初のキスかもしれない。
「んっ…んん、ぁ…っ」
「千歳」
熱っぽい声で囁く蓮が、ゆっくりとシャツのボタンを外しているのに気付いて、千歳は顔を赤らめた。
「ちょ、待って」
「待たない」
「あの、そうじゃなくて…えっと」
戸惑って、おろおろしている場合じゃない。蓮の手はすばやく千歳のボタンを外し終え、中にもぐりこんで肌を撫で上げている。
「あ…んっ、やだ、ちょっとだけ待って」
「しつこい」
「ね、ねえ蓮…その、だから」
「後で聞いてやるよ」
「後じゃないってば!待ってよ、お願い」
あたふたと焦った顔で腕を突っぱねる千歳に、蓮は仕方なく動きを止めた。
「…なんだ」
「あ…えっと、する、の?」
「嫌か」
「い、イヤじゃないんだけど、その、なんて言うか…そう!お風呂入ったり、しないのかなあって」
逃げ口上としか聞こえない千歳のセリフに、蓮は溜息を吐く。
「入りたいのか?」
「…出来れば」
「俺も一緒に入るが、それでも?」
「い、いやそれは…」
この南国荘には一階にだけ、広い浴槽を備えたバスルームがある。そのためか一階にあるこの部屋には、ユニットバスがついていなかった。