【蓮×千歳J】 P:07


 確かに二人で入っても余るくらいの広いバスルームだが、一緒に入るなんて考えられない。
 千歳は恥ずかしそうに首を振った。

「じゃあ、おとなしくしてろ」
「う、あ…待って!」

 再び腕を突っぱねた千歳に動きを止められ、蓮は顔を上げる。

「…今度は何だよ」
「だからその…僕、初めてだって、京都で言ったよね。覚えてる?」
「ああ」
「蓮は初めてじゃ…ないよね」
「………」
「わかってる!今この状況で、こういうこと聞くのは、反則だってわかってるんだけど…」

 晩生な千歳と違い、蓮が今まで誰とも経験を持たなかったなんて、考えていない。でも手馴れた蓮の積極さが、千歳を不安にさせる。

「さすがに男はないな。お前だけだ」
「…うん」
「怖いか?」
「そりゃ…ちょっとは怖いけど。もう逃げないって、決めたし」
「いい心掛けだ」
「でも、でもさっ」

 何度も抵抗する千歳を見つめ、蓮はさすがに眉を寄せた。

「千歳…これ以上焦らしても、いいことはないぞ」
「焦らしてないってば!…あの、ね」
「何だ」
「その…初めてだし、いきなりだし、男だし…たぶん、下手だと思うんだ…」
「………」
「だから蓮…もし呆れても、嫌いにならないでくれる?」
「お前ね」
「だって、どうなるか想像も出来ないんだもん…」

 だんだん語尾が小さくなっていく千歳を見つめて、ふっと笑った蓮は、ゆっくり身体を起こした。

「ご、ごめん。怒った?」
「いや。お前が不安になるのも、当たり前だと思っただけだ」

 千歳の前に立つ蓮は、少し思案するような顔になって。不安そうな千歳を見下ろすと、柔らかく前髪をかきあげてやった。

「千歳。靴を脱いで、ベッドに上がって、楽にしてろ」
「え?…う、うん」

 言われたとおりに靴を脱ぎ、這うようにしてベッドの真ん中あたりまで乗りあがった千歳は、そうっと振り返ってそのまま動きを止めてしまった。

「れ、ん」

 真っ赤になった千歳の視線の先。蓮は潔く服を脱ぎ捨て、あっという間に一糸纏わぬ姿になっていた。
 慌てて下を向く千歳に、蓮が落ち着いた低い声で「目を逸らすな」と命じる。

「で、でも」
「いいから。…怖くないだろ」

 おずおず視線を上げた。
 全裸になっている蓮の、鍛え上げられた身体。しなやかに細い筋肉質の身体は、彫刻のようにきれいな造形で、溜息をつきたくなってしまう。

「怖くない…すごい、きれいな身体…」
「触ってみるか?」
「いい、の?」
「ああ」
「…うん。じゃあ、触ってみたい」