ここにいる精霊と仲良くなったのをきっかけに、千歳は蓮から手入れの仕方を教えてもらっていた。いまだに庭へ一人で出るのは苦手だが、この子に慣れたらそれも平気になるだろう。
そばへ来たラジャはそっと葉を持ち上げて、頷いている。
『ふむ、十分だ。この子も喜んでいるよ』
「良かった」
『しかしそろそろ、鉢を替えてやった方がいいかもしれんな…お前には小さかろう』
ラジャに話しかけられ、精霊は滅相もないと言いたげに首を振っている。でもしばらくすると、千歳とラジャの顔を交互に見て、何かを呟きながら下を向いた。
恥ずかしげな様子に、ラジャが笑っている。
「あの、なんですか?」
ラジャの言葉ならわかるが、他の精霊たちの言葉は聞こえても、内容までは理解できない。
不思議そうな顔で見上げている千歳に、ラジャは鉢を指さしながら、通訳してくれた。
『もし替えてくれるなら、千歳の好きな色の鉢にして欲しいそうだ』
「え…僕の好きな色?」
『ああ。今度、蓮と一緒に選んでくるといい』
もっと千歳に好かれたいのだろうと、ラジャが付け加える。小さな存在から向けられる無償の好意が嬉しくて、千歳は頬を綻ばせた。
「わかりました。ねえ、蓮。付き合ってくれる?」
そんな風に可愛く笑ってお願いされても、蓮には千歳が独り言を言っているようにしか見えていない。
憮然とした顔で食卓を整えながら、蓮は溜息を吐いている。
「…何が」
「あ、ごめん。えっと、この子の鉢を替えてあげたいんだけど、僕の好きな色がいいって言ってるんだって。ラジャさんも蓮と一緒に選んで来いって」
「わかった」
「植え替えなんて、僕でも出来るかな?」
「大丈夫だろ。教えてやるよ」
「ありがと。何色の鉢がいいかなあ…蓮はどう思う?」
南国荘に住む見えない者たちに、千歳が慣れていくのはいい傾向だと、蓮も思っている。人ではない者に怯え、怖がる千歳をずっと見ていたから、今の幸せそうな顔には愛しさも募る。
しかしその相手が見えない蓮にとって、面白くないのも真実だ。
「お前に選んで欲しいんじゃないのか」
「うん、僕の好きな色がいいって」
「じゃあ自分で選べ。いいから、こっち来てさっさと食えよ」
「そうだった。…ありがとう。ちゃんと買って来るからね」
小さな精霊にそう話しかけ、ラジャに笑いかけて、鉢の周りを片付けた千歳は、慌てて食卓につく。
朝は洋食の多い南国荘だが、蓮の宣言通り、今日は和食が並んでいた。
「いただきます」
千歳が手を合わせると同時に、あくびをかみ殺しながら虎臣(トラオミ)がリビングに姿を現した。