「おはよう、虎ちゃん」
『トラ、おはよう』
たとえ相手に聞こえなくても、相手が自分を見なくても、ラジャは必ず全員に声をかける。それを聞くのが嬉しくて、千歳も笑顔で虎臣を迎えた。
「おはよう、虎くん」
「…榕子さんと、どこにいるのか知らないけど、ラジャさん。おはようごさいます」
深々と頭を下げた虎臣は、ぐったりした顔で千歳の隣に腰掛ける。
「で…おはよ、千歳さん」
「うん…どうしたの?疲れてるみたいだけど」
心配そうに見つめる千歳の横で、忌々しげに溜息を吐いた虎臣は、じろりと後姿のまま振り向かない蓮を睨みつけた。
「あの人のせいだよ」
「え…?」
「ねえ千歳さんっ!千歳さんがアイツの部屋で寝るのは、仕方ないって思うけど。ボクを起こすのまで、アイツ任せにしないでよっ!」
「あ、あの」
週に何度も蓮の部屋で寝ている千歳が、何をしているのか。バレてないとは思っていないが、こうはっきり言われると返答に困ってしまう。
あたふたと慌てている千歳に気付かず、虎臣は自分の前に黙って朝食を並べる蓮を不満そうに見上げた。
「勝手に入ってくんなよなっ」
「だったら自分で起きろ」
「アンタが来なきゃ、起きてたよっ」
「そう言うから放っておいたら、先週は遅刻しただろ」
「だ、だからって!あんな起こし方するかフツウ?!」
苛立って顔を赤くしている虎臣を見つめ、榕子が不思議そうに首をかしげた。
「あんなって、どんな起こし方してるの?蓮ちゃん」
「聞いてよ榕子さん、酷いんだよっ!オレが寝てたら、いきなり上から乗っかってきて…」
「えええっ!!」
虎臣の言葉を最後まで聞かず、自分の起こされ方を思い出した千歳は、目を見開いて虎臣を引き寄せると、そのままぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、蓮!虎くんに何したのっ」
「お前な…」
「あ、あ、あんなこと、まさか虎くんにまでっ」
「するかっ」
頭痛を覚えている様子で蓮に否定され、きょとんとしている千歳の腕の中、虎臣はむくれた表情を浮かべた。
「…あんなって、どんな?」
低い声で尋ねられ、千歳は真っ赤になりながら虎臣を解放する。
「や、いや、違っ」
そんなこと、するはずない。
当たり前だろう、アレは恋人の千歳相手だからこそしているのであって、蓮が誰にでもあんなことをするはずがない。
墓穴を掘ってしまった千歳は、下を向いて小さくなる。
「ねえ、あんなって、どんな?」
「ごめん…あの」