【蓮×千歳K】 P:13


 想像に難くない蓮の話を聞いて、虎臣がしたり顔で頷いている。

「ああ、理子なら言うよな」
「虎くんっ、お母さんを呼び捨てにしないのっ!」
「…はあい」

 話が逸れていきそうなのを察した千歳は、厳しい表情で蓮のシャツを握ると、顔を近づけた。

「それで!」
「いや、だから…ちょうど自分の男にイタリア行きの話があると彼女が言うから、だったらそれを受けて、お前をここへ住まわせたらどうだ、という話に…」

 しどろもどろに蓮が説明する。
 理子と蓮で勝手に千歳の引越しを決めてから、一ヶ月の準備期間を経て、計画は実行されたらしい。
 紅茶のカップを手にした榕子が、にこにこと微笑んでいた。

「そうなのよ。理子ちゃん、イタリアに行く前も、わざわざここまで来てご挨拶してくれたの。本当に家族思いのいい子よね」
「榕子さんまで…じゃあまさか、ラジャさんも会ったんですか?」

 拗ねた顔で見上げられ、ラジャは苦笑いを浮かべている。

『まあ、そうだな。話はしなかったが』
「理子ちゃんにちーちゃんたちが住む部屋を見てもらったり、虎ちゃんの通う学校を案内したりしたのよね」
「そうそう、その時、各部屋にユニットバスをつけることになったんだよ」
「伶くんまで…」

 会話に割って入った伶志は、まるで手品の種明かしでもしているみたいに、面白がっていた。

「それまでは、親子とイトコだけだし、一階の風呂しかなかったんだ。千歳さんが来ることになって得したな〜」
「工事は慌しかったけど。ラジャもあの時は大変だったわね」
『済んだことだよ』

 きょとんとした顔で、虎臣が伶志を見上げている。

「なんで、風呂?」
「君のお母さんが、ウチの息子は他人と生活するのに慣れてないから、たぶん風呂やトイレの共有をストレスに思うだろうって言ってね。それ聞いた蓮さんは、千歳さんを引き取りたいあまりに、すぐ工事を発注したわけ」
「ああ、それで風呂だけ、異様にきれいだったんだ」

 納得した、と頷く虎臣を、千歳は眉を寄せたまま見つめる。
 納得なんか出来ない。皆に全部バレていたなんて、一人で悩んでいた千歳は、一体どんな顔をすればいいのか。
 何を言おうか困っている蓮と、拗ねた表情をしているくせに、蓮のシャツを握りっぱなしの千歳を見上げて、虎臣が大人びた溜息を吐いた。

「…ねえ、もう諦めなよ千歳さん」
「虎くん…」
「理子…じゃないや、お母さんのやりそうなことじゃん?悪いことばかりじゃないでしょ」

 虎臣の言葉を補足するように、雷馳が低い声でぼそぼそ呟いている。

「…人生万事塞翁が馬」
「そうそう。雷馳の言うとおり。結果オーライってね」

 雷馳の肩に腕を回し、明るく言う伶志を見ていたら、確かに千歳もいつまでも拗ねているのはバカらしくなってきた。