【蓮×千歳K】 P:12


 仕方なく零した蓮の言葉を聞いて、同じくらい驚いても良さそうな虎臣は、静かに箸を置いた。

「ごちそうさまでした」
「虎くん…」
「なんか、やっぱりって感じ。理子が何もしないなんて、おかしいと思ってたんだ」
「え?」
「だってさあ、千歳さんと蓮さんをくっつけるんだって言って、あんなに喜んでたのに。全部放り出してイタリア行くとか言うんだもん。絶対なんかあると思ってたよ」

 となると、まったく気付かなかったのは千歳だけなのか。
 思えば千歳の結婚に対して、蓮の態度がいきなり軟化していたのも、引越し先を探す話を聞いて、蓮がすぐに自分の元へ来いと言ったのもおかしかった。

「そういえば蓮、僕と虎くんが二人で住むようになってすぐ、うちのマンションに来たよね」
「…ああ」
「あの時、蓮が一緒に住もうって誘ってくれて、僕が迷ってたら、タイミングよく理子さん帰ってきたけど…偶然じゃなかったの?」

 荒れた部屋を見て、ろくなものを食べていないと知った蓮が「覚悟を決めてうちに来い」といってくれた時だ。ちょうどそこへ荷物を取りに戻ってきた理子が、あっさりと千歳の引越しを決めてしまった。
 じとっと見上げる千歳の視線に、蓮は目を逸らしながら「まあな」と呟いている。

「あの日彼女は朝からここへ来ていて、用を済ませてから、俺の車で一緒にお前の家へ移動した。…しばらく車で待っていた彼女は、タイミングを見計らって、部屋に上がってきたんだ…」

 ぼそぼそ言うのを聞き、千歳はあまりのことに蓮を睨みつける。当の蓮も少なからず悪いと思っているのか、降参だと言いたげに両手を挙げ、もう一度「落ち着け」と呟いた。

「全部、白状してっ」
「だから…中沢さんを通じて、お前の嫁さんが連絡してきたんだ。お前が俺に結婚したことを責められて、泣いてるって」
「泣いてないっ!」
「わかったから、そう怒鳴るなよ」

 眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている蓮が、ちょっと可愛いなんて、この期に及んで考えてしまうあたり、千歳もいい加減末期だ。
 しかし今は、首を振る。
 可愛いとかカッコいいとか、言ってる場合じゃない。

「信じらんない…何も知らないって顔してたのに、理子さんに全部聞いてたんだ…」
「…その分さんざん、貢がされたぞ」
「どういうこと?」
「何年も一緒に暮らしてきたお前を、返してやるんだから当然だって。呼び出すたびに同伴だノルマだと、店で金を使うよう強制されたんだよ」

 蓮はうんざりした顔で溜息を吐く。
 千歳の話だと言われたら、蓮は出向いて行くしかない。それをいいことに理子は、自分の働く店に蓮を呼び出し、過去最高の売り上げを築いて店を辞めたのだ。