【南国荘U-@】 P:03


 席はそれぞれ背の高い衝立に区切られているけど、お客さんたちは通り過ぎるボクを見て、みんな驚いているみたい。

 今回日本に来たのは十年ぶり。三回目。
 生まれてすぐ、ジンの実家へ行った時のことは覚えてない。ギムナシオ(中学校)の夏休みに、ジンの仕事にくっついてきたときは、どこでも大人に間違われた。
 それから十年。久しぶりの日本。
 この数日あまりに注目されるので、目立つのにもすっかり慣れてしまった。

 案内されて席に着いたボクらは、レンが頼んでくれた料理とか、お酒とかでやっと人心地。
 やっぱり寒いよね、日本。
 先週までいたギリシャとは、比較にならない寒さだ。

「岩橋(イワハシ)には一昨日会ったぞ。あいつ相変わらず丸いよなあ」
「岩橋編集長も陣さんのこと、相変わらずだって言ってましたよ」
「相変わらず、なんだって?」
「女性を撮らせることと、モデルを怒らせることでは、右に出る者がないと」
「あははは!仕方ないだろ、女は怒らせた方が綺麗になるんだ。しかし最近、日本のモデルはただ細いだけだな。艶がなくて誰を撮っても変わらねえ」
「陣さんの真似はするな、女はおだてて撮るもんだって、俺は今も山田(ヤマダ)さんに言われます」
「山さんも、変わらねえな。まだ女に夢見てんのか」

 仕事のことや、古い友人たちのことを話す二人に、口を挟めない。その分ボクは、じっとレンを見ていた。
 日本人の中ではきっと、背の高いレン。でもボクには彼が、可愛く見えて仕方ない。
 想像していたより、ずっと精悍だけど。彼を抱きしめてしまいたくなる衝動は、目の前にした今のほうが強いんだ。
 
 
 
 レンの姿を初めて目にしたのは、五年くらい前。その頃レンは、ジンのアシスタントをやっていた。
 ジンはママのことをとても愛していて、ママもジンをとても愛してる。だからジンは、あまり日本での仕事を引き受けようとしないんだ。
 カメラマンとしてJINの名は、日本の方が有名だけど。でもギリシャでもかなり有名なんだよ。
 短い撮影期間なら、って言って、今よりは頻繁に日本での仕事を引き受けていた、五年前のジン。
 そのジンの都合に合わせられる、腕のいいアシスタントは、レンじゃなきゃ務まらなかったみたい。

 ジンは本当にレンを気に入ってるんだ。名前だけなら写真を見せてもらうより、もっと前から聞いてた。
 いつもぶすっとして、余計なことは何も言わないのに、俺の求めるものを全部持ってるんだって言って。