ママはボクより先に、一度だけレンと会ってる。ボクが友達との旅行で家を空けていたとき、寂しがって日本までジンの撮影に付いて来たことがあるから。
ママもとても素敵な子よって、すごくレンのこと気に入ってた。
今にして思えばジンは、レンがいるから日本での仕事を、引き受けていたのかもしれない。
先生や生徒というわけじゃないけど、レンがアシスタントに入るときは必ず、デザイナーや編集者に、まだ若かったレンを紹介していたって、話していたから。
そう、それでね。五年前のある日、日本から戻ってきたジンは、一枚の写真を見せてくれたんだ。
その写真の中で、レンはブランケットを握り締め、気持ち良さそうに眠っていた。
写真には撮影機材が映りこんでいたから、現場で撮ったものなんだって、すぐわかったよ。ベッドもソファーもないところ。
でもレンは、とても無邪気な表情で眠っていたんだ。
その時はすごく忙しかったんだって。毎日深夜までかかったんだって。
みんな疲れ果てていて、ジンも辛かったって言ってた。
最初、レンがつい寝入ってしまったのを見つけたときは、起こしてからかうつもりだったジン。でもレンの表情を見て、思わずカメラに収めてしまったみたい。
――別人じゃないかってくらい、可愛い顔して寝てやがるんだ。そりゃ撮るだろ。
ボクに写真を差し出しながら、ジンは笑ってた。
レンはボクより5歳年上で、今は28歳。
だから五年前のレンは、今のボクと同じ23歳だったはず。でも写真の中のレンは、本当の年齢よりずっと幼く見えた。
無防備な頬に触れたくなるくらい、可愛かったレン。
ボクはその写真に、魅入られてしまったんだ。
そして同時に、自分が今までどうして誰も愛せないでいたか、やっとわかった。
恋人はそれまで何人もいたよ。
色んな女の子を抱きしめて、愛してるって囁いてきた。でもボクはきっと、彼女たちが望む言葉を紡いでいただけだったんだ。
だから誰とも長続きしなかった。別れ際に「サクラは冷たい」と言われるたび、そうかもしれないと思っていた。
優しくしてあげたいと思うのに、時間を経るにつけ、ボクの中からは彼女たちへの興味が失せてしまう。
でも、違うんだ。彼女たちでは、ボクを夢中にさせることが出来なかっただけ。
写真の中のレンをとても可愛いと思ったけど、その姿はけして、女の子の様だったわけじゃない。
ブランケットに包まれていたのは、固い男の体。目を閉じている顔も、女の子とは全然違う力強い男のもの。