【南国荘U-@】 P:05


 でも、惹かれた。どうしようもなく。
 ボクはその時ようやく、女の子たちを抱きしめていた自分が、根本的に間違っていたことに気付いたんだ。
 ボクが愛せるのは、ボクと同じ男だけなんだということに。

 ゲイだと自覚した後は、いろんな男と付き合ってみた。愛してくれた人も、愛せた人もいたよ。彼らとの時間はそれまでより、何倍も幸せな時間だった。
 でもね、思ったんだ。
 人生には何があるかわからない。いつどんなことが起こるのか、誰にも。
 後悔してはいけないんだ。
 生きている限り。

 レンに会わなくてはいけないという思いは、日々強くなるばかりだった。
 彼とは違う男を愛して、生きていくことは出来るだろう。でもそれはきっと、レンの代わりでしかない。
 何かで恋人とすれ違うたびボクはその思いで、目の前の人から逃げてしまうんだろう。
 だからボクは、日本に留学しようと決めたんだ。
 レンのいる日本で、レンと会って。
 何かを始めなければ、ボクはきっと後悔すると思ったから。
 まあ、ママには随分泣かれたけどね。

 父親のジンは日本人だし、ママも日本が大好き。自然と昔から、ボクは日本に興味を持っていた。
 大学で建築を学ぶボクの専門は、木造建築。ギリシャには大理石の素晴らしい遺跡がたくさんあるけど、ボクが惹かれるのは数千年前の遺跡じゃない。
 何百年と言う風雨に耐え、しなやかに人を受け入れる、木造建築なんだ。そのことも、留学を決心する理由のひとつだった。

 今回の来日は春からの留学に向けて、色々と手続きを済ませるため。大学ももう決まっている。
 ちょうどジンにも日本での仕事があったから、一緒に来日できたのは、何かと都合が良かった。
 でもね、まさか今回の短い来日の間に、レンと会うことまでは考えてなかったんだよ。春から始まる留学中に、必ずレンを訪ねようって決めてたくらい。
 もちろんいつか、なんて曖昧なことを考えていたわけじゃない。春になって、自分が日本での生活に慣れたら、すぐにでも会いに行くつもりだった。
 そう思っていたのにジンが、帰国の三日前になって突然、レンと食事をすることになったって言い出したんだ。
 もう、嬉しくて嬉しくて。
 絶対にボクも行く!って言って、連れて来てもらったんだ。

「岩さんが、すげえ自慢すんだぜ?お前をやっと口説き落としたんだっつってよ」
「脅迫でしたよ、あれは」
「関係ねえ現場に押しかけて来て、この雑誌押し付けていきやがった」
「…見たんですか、それ」
「こんだけ撮れて書けりゃ、合格だ。いい仕事だよ蓮。とくにこの京都の回がいい」