ジンが鞄から取り出した雑誌を見て、レンが複雑な表情を浮かべてる。
ボクも見たよ。レンの撮った写真と一緒に、彼の綴った文章が載っている、旅行雑誌。
幻想的な風景を切り取った写真と、明るい表情の人々を撮った街中の写真。
日本に来る前に読んだどんなガイドブックより、レンの文章はボクの京都への憧れを、強くしてくれた。
行ってみたいな、京都。いつかレンと一緒に行けたら、最高なんだけど。
ジンもレンの記事をとても気に入ったみたいで、その雑誌を見ながら何度も何度も「あいつはもう一流だ」なんて、嬉しそうにしていた。
褒められたレンの方は、なんだか居心地が悪そうだ。
「なんか、怖いですね。そう陣さんに手放しで褒められると」
「なんだよ。俺だっていいもんはちゃんと褒めるぜ?アシスタントやってた頃にお前が撮ってた、あの曖昧な絵に比べりゃ、そうとうなモンだ。成長したな」
「陣さんに並ぶまでは、まだ随分かかりますよ」
「当たり前だバカ。俺が何年かかって今んトコまで上って来たと思ってんだ。もっと足掻けよ、蓮。現状に満足すんな」
「はい」
こういうの、叱咤激励っていうのかな?
レンは素直に頷いて、でもちょっと嬉しそう。
言葉少なにジンの話しを聞きながら、レンはちゃんとボクらを見てる。
お酒がなくなったら注いでくれるし、お皿が空いたら料理を取り分けてくれる。
細やかな心遣いは、日本人特有のもの?それともレンが特別なのかな?
でもこんな風に、自分の気遣いを相手に悟らせず、静かに振舞える人なんて、たくさんはいないと思う。
豊かじゃない表情だけど、だからこそたまに見せる笑みや照れた様子が、ボクをドキドキさせる。
やっぱり可愛いな。今すぐにでもここから連れ出して、二人きりになりたい。
思っていたより低いレンの声。耳に届くときの、響く感じがたまらない。
あの声が腕の中で、甘やかにボクの名前を呼んでくれたら。それだけでボクは、達してしまうかもしれない。
「どうした咲良、まさか酔ったわけでもねえだろ?」
ジンに言われてはっとする。
ちょっと浮かれすぎだよね。ボクはまだ何もレンに伝えていないのに。
「うん、ダイジョーブ。…ねえレン?レンはもうジンのアシスタントしないの」
「お前なあ、無茶苦茶言うなよ。今の蓮をアシスタントになんかしようもんなら、俺のギャラが吹っ飛んじまうじゃねえか」
「そんなに払ってくれるんですか?だったらぜひ雇ってください、陣さん」
にっと笑ったレンに、ジンは嫌そうな顔をする。