「確かにそれなら俺も安心だ。どうだ蓮、部屋に空きがあれば、頼まれてくれねえか」
「陣さんまで、急に何を…」
「いや、今回こいつ連れて、随分下宿を探したんだが、思った以上に大変でな。ただの留学生ならともかく、ギリシャ人なんかよくわからねえから引き受けられないと、さんざん断られたんだよ」
本当にね。
ボクは日本語もできるし、父親だって日本人なのに。ギリシャ人と聞くと、相手は二の足を踏んでしまう。
しかもそんな相手に、すぐジンはカッとなって、ケンカになるんだ。俺の息子に何の不満がある、なんて言って。
一応、大学で紹介された下宿もあるんだけど。生活環境がいいとは思えなくて、全部保留にしたまま、今回は帰国するつもりだったんだ。
ジンはボクのアイデアを気に入ってくれたみたい。一生懸命レンに頼み込んでくれる。
「俺の実家は北海道だ。咲良には東京に知り合いもねえし。何とかならんか」
「何とかって…」
「もちろん迷惑なら無理にとは言わんが、俺としてもお前なら、信用して息子を任せられる」
「いや、しかし」
「金のことは、お前の言い値で構わん。好きなように決めてくれ。図体ばかりデカい息子だが、何かの役には立つだろ。どんなにこき使っても文句は言わない」
「…陣さん…」
「頼む蓮!この通りだ!!」
「オネガイシマス!!」
テーブルに両手をついて、ジンと同じように頭を下げる。これってジャパニーズスタイル?
レンがどんな顔をしているのか見えなかったけど、しばらくして溜息を吐いたレンは、それまで話していたよりいくらか低い声で「頭、上げてください」と呟いた。