そんなことを考えながら歩いていたボクは、横断歩道を渡ったところで足を止めた。
……困ったな。もしかして、迷った?
到着した駅では、けっこう丁寧に道を教えてもらったのに。10分もあれば着くと言われた南国荘。まだそれらしい建物は見えてこない。
もう30分くらい歩いたよね?
さすがに疲れてきた。日本の寒さは堪えるよ。軽かったはずの荷物まで、だんだん重く思えてくるんだ。
誰かに聞こうとしても、みんな逃げちゃうし。どうしよう。レンに電話する方がいいのかな?急に現れて驚かせる予定だったんだけど。ついでに、ボクが頼りになるしっかりした男だって、思って欲しかったのに。
諦めきれずに周囲を見回すけど、笑みを浮かべて近づこうとした途端、彼らは顔を引きつらせ逃げていく。お店の人まで慌てた様子で、奥へ引っ込んでしまった。
お願いだよ……大好きな日本。あまりボクに悲しい思いをさせないで欲しい。
溜息を吐いて俯くボクが、そのまま蹲りそうになった時だ。後ろから声を掛けてくれる人がいた。
「Can I help you?」
嬉しくてぱっと振り返る。小さな車のそばに立っていた若い男が、にこやかにボクを見ていた。
「アリガトウ!道をオシエテくだサイ!」
「なんだ、日本語じゃない」
「ニホンゴ、ダイジョーブ!コエかけてくれてアリガト!」
「…発音最悪」
笑みを絶やさないけど、ちくりと冷たい言葉。でもそんなの全然気にならない。この子はボクに声をかけてくれたんだから。
足早に駆け寄って、住所のメモを差し出した。
「南国荘、シッテル?ボクそこへ行きたいのデス」
「南国荘って…葛さんち?」
「ソウ!良かった、シッテルんだね!」
「駅で聞かなかったの」
「聞いたヨ。デモ迷ったミタイ」
「じゃあ駅の出口から間違ったんだね。迷ったみたいどころか、方向が逆」
溜息を吐いて、ボクを見上げてる。とても小柄で華奢なんだけど……日本では普通なのかな。レンってやっぱり日本では背が高いし、体つきもしっかりしてるんだね。
綺麗な顔に笑顔を浮かべてる彼は、いくつくらい年下だろう。幼い容姿には不似合いな、落ち着いた雰囲気。
「いいよ、帰るところだから乗ったら?南国荘まで送ってあげる」
彼は自分の車を指さし、ボクのためにドアを開けてくれた。なんて親切なんだろう。
「南国荘の住人が増えるって聞いてたけど、君のこと?」
「ソウダヨ。もしかしてキミはレンのトモダチ?」
ボクが聞くと、運転席に乗り込んだ彼は、急に不機嫌な表情を浮かべる。