【南国荘U-A】 P:07


 
 
 
 まだまだ日が暮れるのって、早いんだ。
 ビジネス街を忙しなく歩く人たちをぼんやり見つめ、ぼくは東さんに指定されたカフェで、彼の仕事が終わるのを待っている。
 こういう、シアトル系のカフェって苦手だ。
 ぼくみたいに要領の悪い人間には、何をどう注文すればいいのかわからない。メニューもカタカナばかりで、意味がわからず迷ってしまう。……迷っていたら、笑顔で急かされる気がするし。
 だからいつも、コーヒーしか頼めない。
 案の定、今日もぼくは同じ経緯で頼んだホットコーヒーを手にしていた。
 朝から二杯目のコーヒーだ。
 一日二杯以上コーヒーを飲むと、胃が痛くなるんだけど。やっぱり他のものを頼むことが、出来なかったから。

 宣言どおり、ぼくをクリニックへ連れて行ってくれた東さんは、待合室で「電話をかけてくるから」と席を外した。その間に始まった診察で、ぼくはお医者さんから、激しく叱責されてしまった。
 しばらく放っておいたせいで、ケガはかなり悪化してたみたい。患部が熱をもったら冷やすぐらいのことを考えられなかったのかって、耳が痛くなるくらい怒鳴られた。
 そこへ電話が済んだのか、東さんが戻ってきて。お医者さんに「ここへは通えないから、応急処置が済んだら診断書をお願いします」って言ってくれたんだ。
 確かにあのクリニックに通うことは出来ないだろう。こんなビジネス街で、もう一度ぼくに仕事が見つかるとは思えない。
 書いてもらった診断書を手に、東さんとクリニックを出た。
 そこの支払いは全部、東さんが払ってくれたんだ。
 一回くらいなら治療費払えますって言ったんだけど、聞いてくれなかった。

 それからお昼ご飯を一緒に食べて、そこも東さんが払ってくれて。一体どうやって返せばいいのか頭を抱えるぼくに、東さんは荷物はどうしてるの?って聞いてくれる。
 今日は出版社に行かなきゃいけなかったから、全部駅のロッカーに預けてあることを伝えると、東さんは夕方6時に仕事を終わらせるから、荷物を出して待っているように言ったんだ。
 その場所が、今ぼくのいるこの店。

 これから東さんがぼくに、どんな話をするつもりなのかわからないけど。もうこれ以上の迷惑をかけることはできない。それでもおとなしく待っているのは、東さんに少しでもお金を返そうと思っているからだ。
 もちろん今すぐ、全額を返すことはできないんだけど。
 携帯を持ってない今の状態では、東さんに連絡を取ることさえ出来ないんだから、どんな話にせよ待っているしかない。
 とにかく仕事を探さなきゃ。なんでもいいから、お金をもらえるところ。