話には聞いていたけど、ここにはレンの他にも、何人もの人が住んでいる。
優しい笑顔を浮かべた唯一の女性、ヨウコさんは、レンのママ。
ジンが彼女のこと可愛らしい人だって言ってたけど、本当だ。レンのママだなんて信じられないくらい若い、少女みたいな可愛い人。情熱的なボクのママとは全然違うけど、同じくらい愛情に溢れた、温かい雰囲気だ。
明るく笑ってボクのことを「さくらちゃん」と呼んでくれたとき、この人が大好きだと思った。
それから、同じ顔がふたつ。
レンのイトコだというレイシとライチは、黙っていると見間違えそう。だけど話してくれたら、すぐにわかるよ。
レイシはすごく面白くておしゃべり。
ライチは同じ顔だけどとても静か。でもちゃんと、ボクらの話を聞いてくれている。
さっきレンと話していたチトセは、リキオン(高校)でレンの同級生だったって。
彼の隣に座ってるのが、案内をしてくれたトラオミ。見た目は幼くても、しっかりした態度でボクとアオキを案内してくれたのに、彼はまだギムナシオ(中学校)へ通っているらしい。
とてもカッコよく可愛いトラオミ。もう十年くらいしたら、レンにも引けをとらないくらい、素敵な人になるかもね。
あとはボクと同じように、今日初めてここへ来た、アオキ。みんなで囲む大きなダイニングテーブルで、彼はボクの隣。
レイシは「南国荘の住人」って、自分たちのことを呼ぶ。確かここへボクを案内してくれた、親切なお花屋さんもそんなこと言ってたね。
その言葉が、すごく気に入ったんだ。
ボクも今日から、南国荘の住人なんだと思うと、嬉しくなってしまう。
一通りの自己紹介や、ボクが南国荘へ来た経緯を話し終わったときだ。レイシは急に不満そうな言葉を口にした。
「それにしても榕子(ヨウコ)さん、どうして咲良くんはそのままなの?二宮くんはあーちゃんなのに」
つまらない、と零すレイシに、ヨウコさんは「だって」と拗ねた顔をする。本当に少女みたいだね。可愛いひと。
「陣さんがここにいらして、お話を聞いていたときから、そう呼んでいたんだもの」
「だけどさあ…。千歳さんのときは悩んでたでしょ?ちーちゃんに決まるまで」
「だったら伶(レイ)が何か考えればいいんじゃない?」
どうにも納得のいかない様子のレイシに、笑いながらトラオミが言う。
「そういうのは榕子さんの専門なのに…なにがいいかな。ギリシャ名なんだっけ?」
「ミルティアディス」
「うわ、ごめんムリ。舌、噛みそう。雷馳(ライチ)はどう思う?」
ずーっと黙っているライチにレイシが聞くと、しばらくして彼はぼそっと呟いた。
「…さっくん」