【南国荘U-B】 P:09


 五年前からずっと。初めて見たときから惹かれていた。
 ボクがそう話していると、赤かったチトセの顔が、なぜかすうっと青くなっていく。
 そんなに深刻な話?もちろん真剣な話ではあるけど…
 でも顔を見合わせたレイシとトラオミの方は、次の瞬間、笑い出していた。

「あははは!マジ?マジで?さっくん、蓮さんと付き合いたくて、わざわざギリシャから日本まで来たの?」
「ソウ…ダケド。そんなにワラウこと?」
「ごめんごめん怒んないで。でも、もう一コ質問。そのガタイで蓮さんと、ってことはさ…まさかさっくん、いつか蓮さんを押し倒す気でいるの?」

 あからさまな質問に、ついレンの方を見てしまう。まだまだボクに、心を開いてくれているとは言いがたいレンだから。今そんなこと言うのは、どうなのかな?
 レンは不機嫌な表情そのままに、笑い続けるレイシを睨んでいた。
 怒ってるけどそれは、ボクに対してじゃないみたい。なら、言っても大丈夫?

「…レンがユルシてくれたら、カナ」

 無理強いする気はないよ。レンが受け入れてくれるまで待つつもりだから。
 そういう意味だったんだけど、レイシは目を丸くして驚いた。

「すごい!すごいよさっくん!日本人じゃちょっと考えないっ!」
「え…ドウシテ?」
「だってさ。あんなに鍛えた身体で、背も高いんだから。大変じゃん、日本人がアレ押し倒そうと思ったら」
「伶」
「マジもう、超見たい。押し倒されて対処に困ってる蓮さん」
「伶…いい加減にしろ」

 低い声で、レンがレイシを止めた。でもレイシはそんなの全然気にしてないみたいで、ニヤニヤ笑いながらレンを見上げる。

「何だよ。どうせそんなコトになんないでしょ?それともちょっとは考えたり?」
「…残念だな」
「え?何が?」
「いい出来なんだが、これは捨てるか」

 ひょいっとキッチンからレンが持ち上げたのは、おそらく今夜のデザートなんだろう。小さくて美しいケーキが、まるできれいなインテリアみたいに並んでいた。

「ちょ、待って!」
「うるせえこの甘味オタクが。俺はもう、お前に甘いものなんか一生作らねえ」
「ごめん、ごめんて蓮さん!ボクが悪かったってば捨てないでっ」

 慌てたレイシが席を立って、レンを止めに行ってしまう。ボクはどうしてこんなに、みんなが混乱したり笑ったりするのかわからなくて、ついさっきまでレイシと同じように笑っていたトラオミに、視線を向ける。
 ボクと目の合ったトラオミは、大人びた仕草で肩を竦めると、隣のチトセを苦笑いで見つめた。チトセは相変わらず、青ざめたままだ。

「千歳さん」

 トラオミは軽くチトセの肩を叩いて。暗い表情を覗き込む。

「なんでそんな顔するの?なんの心配もいらないでしょ」
「虎くん…でも」