【南国荘U-B】 P:11


「でも千歳さんが好きだったのは、ずーっと蓮さん。それはオレと理子も前から知ってたんだ。だから千歳さんがこの家に来るよう、仕向けたのも理子なんだよ」
「ちょ、虎くんそんな、詳しく説明しなくていいから」
「なんで?…咲良さんの気持ちが本物なんだったら、誤魔化すのは逆に、失礼だと思うけど」

 暑そうなくらい顔を赤くして、トラオミの言葉を止めようとするチトセは、その言葉に仕方なく下を向いて「ごめんね」と呟いた。
 ……よく、わからない。
 だってこんな話をされた今でさえ、チトセはボクに謝るだけで、それ以上のことを言わないんだ。
 もしボクがレンの恋人で、誰かが奪おうとしていたら、もっと嫌な顔をすると思うよ。
 いくら家族や他人がいても、レンを抱きしめて「ボクの恋人に手を出すな」と言うだろう。
 なのにチトセは、恥ずかしがって下を向いているだけ。
 キッチンから出てきたレンも、何も言わずチトセを抱きしめることもしないで、自分の席に座ってしまう。

「…東さんは、蓮さんと付き合ってるんですか…?」
 ずーっと黙っていたアオキが、急に口を開いた。チトセはようやく顔を上げ、曖昧に笑いながら「まあ、一応」と答えてる。
 だから、どうしてチトセはそんな、自信のない声で答えるの。

「でも、さっきは友達だって」
「ごめんね、ちょっと、言いにくくて」
「同性の蓮さんと、本当に付き合ってるんですか?」
「二宮くん…」
「そんなの、おかしいじゃないですか」
「やめろ二宮」

 どういうわけか、チトセを責めるような口調で言葉を重ねるアオキを、レンが遮った。

「お前が意見することじゃない」
「あ…す、すいません」

 はっとした顔になって、アオキはすぐに謝罪する。
 さっきまでも顔色の悪かったアオキ。今はもう、可哀想なくらい蒼白だ。
 悲しいことだけど、ゲイを嫌悪する人間がいることは、事実だから。
 もしアオキがそうなら、これ以上の問答は辛いだけだろう。もちろん、どちらにとってもだ。

「すいません、東さん…余計なこと言いました」
「うん…あの、気にしないで。ちゃんと説明せずに連れて来た、僕も悪いんだし」
「そんなこと」
「二宮くん、ここに住むの嫌になった?もしそうなら、どこか別の家を考えるけど…」
「ち、違います。東さんには感謝してるし、嫌とかじゃなくてその、信じられなくて、それだけで」
「…うん」
「大丈夫です。あ…大丈夫っていうのも失礼ですよね…すいません…ぼく」
「びっくりしただけ。だよね?」

 にこりと笑ったトラオミが、言いにくそうだったアオキの言葉を引き受ける。