【南国荘U-C】 P:04


 改めて尋ねられ、ぼくはうな垂れて首を振る。

「…わからない」
「そっか」
「嫌なわけじゃないんだけど…ぼくには理解できないって言うか…」

 東さんを好きだという蓮さんの気持ちはともかく、同性と付き合うことを受け入れている、東さんの気持ちが理解出来ない。
 同じ男に自分を女扱いされるようなこと、辛くはないんだろうか。
 身体を拘束されて、痛みを強要される。優しい東さんがそんなことをされているんだと思ったら、つい感情をコントロールできなくなってしまったんだ。
 俯いてしまうぼくに、虎臣くんは「気にしないで」と、変わらず優しい言葉をくれた。

「顔を見るのもイヤだっていうんじゃないなら、そのうち慣れるんじゃないかな。何も二宮さんに男を好きになれって、言ってるわけじゃないんだし」
「…うん、ごめんね」
「あのね。オレ、実は二宮さんのこと、ちょっとだけ知ってるんだよ」
「え…?」

 どうしてかわからず、ぼくが顔を上げると、虎臣くんはにやりと笑った。
 そういう顔が自信に溢れていて、彼にとても似合うんだ。

「さっきケガの話聞いて、思い出した。預かった原稿を守るために、バイクのひったくり犯と戦ってケガした、バイトの人。二宮さんのことだよね?」
「あ…そんな、そういんじゃないんだ。結局は原稿、盗られちゃったし」

 その上ぼくは勝手にケガをして、作家の先生を怒らせ、東さんを始めとする周囲の人たちに迷惑をかけて、クビになったんだから。
 まるでカッコいいことみたいに言う虎臣くんを見て、首を振る。でも虎臣くんの笑顔は変わらなかった。

「十分、すごいことだと思うけど。オレだったら、あっさり諦めそう」
「でも仕事だから…」
「そっか、そうだね。それ言われると、ガキのオレには反論できないな」
「あ…ごめん…」
「いいよ。それよりケガってひどいの?けっこう痛い?」
「ううん、大丈夫。ただの脱臼だし」
「ただのって…二宮さん」

 苦笑いを浮かべた虎臣くんが、何か言おうとしたとき。ダイニングの方から声がかかった。

「トラ〜!何してんのっ?」
「すぐ行くってば!」
「じゃあグラス4個〜」
「ったくも〜。伶(レイ)、人使い荒すぎっ!二宮さん、先に戻ってて」
「あの、手伝うよ」
「いいって、ケガしてんだから。ね?」
「…うん、じゃあ…ごめん」

 仕方なく自分の席に戻りながら、虎臣くんを振り返る。
 ぼくらのジンジャエールが二本と、頼まれたグラスまで。大荷物なのに、それを何でもないことのように運んでいる姿を見たら、手伝うことも出来ない自分が本当に情けなかった。