【南国荘U-C】 P:05


 
 
 
 元々、何の役にも立つことが出来ないぼくだけど、今は本当に役立たずだ。
 南国荘に来てからというもの、何もかも蓮さんに任せっぱなしで暮らしてる。
 初めてここへ来た夜、余計なことを言って蓮さんを怒らせてしまったぼくに、蓮さんはそれ以上何も言わなかった。
 彼はあまり饒舌な性格ではないし、ぼくもあまり喋るのが得意じゃないから。その時の事を改めて話す機会がない、と言う方が正しいのかもしれない。

 カメラマンという大変な仕事をしているのに、家事の全てを引き受けている蓮さんは、当然のようにぼくの食事や洗濯も、他のみんなのものと同じように、片付けてしまう。
 こういう、何でも完璧にこなしてしまう人を見ると、羨ましいのを通り越して、自分が情けなくなる。
 しかも蓮さん本人が、モデルみたいに整った容姿だから。家事をしていても様になるんだ。その上てきぱき動くから、見る間に家事が片付いていく。
 天は二物を与えない、なんていうけど、それは嘘だ。
 蓮さんのように何でも出来る人がいる分、ぼくのように何も出来ない人間がいる。
 迷惑をかけるばかりのぼくは、何もしないのが一番、蓮さんの邪魔にならないんだって。それはわかっているつもりなのに。

「蓮さんに頼まれたの?」

 虎臣くんにそう聞かれて、ぼくはようやく自分が、また蓮さんに迷惑をかけようとしていることに、気がついた。

「あ…どうしよう…」
「え?なんで?」
「ぼく、勝手に…」

 南国荘に来て、三日目だ。
 ぼくに出来ることはなく、ただ毎日、東さんに紹介してもらったお医者さんへ通うだけの日々。
 おじいちゃん先生、と患者さんから呼ばれている町のお医者さんからは、三週間の安静と、その後のリハビリを言い渡されていた。リハビリはこの南国荘の近くにある、接骨院を紹介するからって。
 肩をテーピングで固定され、ほとんど動かせない状態だから。ぼくはとにかく忙しい他の皆さんの邪魔だけはしないよう、気をつけている。
 何もすることがなくて、でも一人で部屋に閉じこもっているのも申し訳ない気がして、ぼんやりリビングに座っていることが多いんだけど。

 今日は通院の予約が、いつもより遅い時間になっていた。
 裏庭の出口の方が近いお医者さんへ行って、同じように裏から帰ってきたぼくは、蓮さんが干したまま仕事に行った、洗濯物に気付いて。
 雲の厚い今日の天気。
 もしかしたら雨が降ってくるかもしれないと思って。
 だから……まるで実家にいた頃みたいに、何も考えず。乾いていた洗濯物を、そばに置いてあったカゴへ取り込んでしまっていたんだ。