「?…洗濯物なんか、誰が取り込んでもいいんじゃない?」
虎臣くんは何でもないことのように言ってくれるけど、家事をする人にはそれぞれ、自分のやり方があると思うから。ぼくの勝手な行動が、また蓮さんに迷惑をかけるかもしれない。
……どうしよう。
元に戻した方がいいんだろうか。
でも暗くなっていくばかりの空は、今にも降り出しそうだし。
「二宮さ〜ん?オレの話、聞いてる?」
「あ…ごめん…」
「手伝うから、中へ入れちゃおうよ。降ってきそうだし」
「でも…」
「うん?」
「あの、蓮さんに迷惑、かけるんじゃないかな…」
どうしていつもこう、馬鹿なことばかりしてしまうんだろう。
だから自分が嫌いなんだ。
抱えたカゴを見つめて迷っていると、中学生なのにぼくとほとんど背丈の変わらない虎臣くんが、それをひょいっと気軽に取り上げてしまった。
「言ったでしょ。こんなの、誰がやったって一緒だよ」
「あ…」
「それよりケガしてるんだから、重いもの持たないでよ。心配するじゃん」
「ご、ごめん」
「謝らなくていいよ、悪いことしてないんだし。全部取り込んだ?じゃあリネン室に運んじゃうね」
学校の鞄も持ってるのに、虎臣くんは洗濯カゴを持って家の中に入っていく。慌てて追いかけたぼくを、ランドリールームの隣にあるリネン室で振り返った。
「ねえ、肩。痛い?」
「ううん、大丈夫」
「じゃあさ、先にコレ畳んでてくれる?オレ着替えて来て、手伝うから。ゆっくりやっててね」
笑顔で手を振った虎臣くんは、ぼくを置いてリネン室から出て行った。キッチンから「榕子(ヨウコ)さんただいま〜」という声が聞こえてる。
肘から先なら、動かすのもさほど苦じゃない。洗濯物を畳むくらいは、固定されている肩にも、問題ないみたいだ。
虎臣くんに言われたとおり、洗濯物を畳み、いつも蓮さんがやっている順番を思い出しながら、リネン室の棚に重ねいく。
八人分の洗濯物というと、結構な量だ。
それを畳みながら、実家では四人分だったことを思い出す。
ぼくの家は元々、母と二人暮らし。その母が再婚して、新たに父と兄が出来て、四人になった。
母は再婚しても仕事を辞めなかったから、二人で暮らしていた頃と同じように、そのままぼくが、家事のほとんどを任されていたんだ。
こういう家事って、嫌いじゃない。
ぼくでも出来る、数少ないことだから。
蓮さんみたいに特別上手いわけじゃないけど、一人で黙々とやる単純作業なら、余計な考えに惑わされない分、気が楽なんだ。